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自分の人生の中で最初の記憶は何だろう? もちろん、前世の記憶とかは無しで。
ベレーザの選手たちのアンケートの見ていると「迷子になった」「やけどをした」「頭を切った」など、小さい頃の悲しかったり辛かったりという感情が、ある種“トラウマ”のように強烈な記憶として刻まれるのかもしれない。そんな中にあって、違和感があった。
「シンガポールでヘビを首に巻いたこと」
大人だったとしても、少し怖いかもしれない。いや、そんなことよりも他の回答と全く毛色が違うのは、迷子になったことなどはあくまでアクシデントだが、ヘビを首に巻くのは事故とは思えない。回答をした村松智子に話を聞いてみた。
「親戚がシンガポールに仕事で行っていたので、小さい頃におじいちゃん、おばあちゃんとかと旅行に行ったんです。そこでヘビを首に巻かれたり、サソリを手に乗せられたり。そこで泣いていたというのが、最初の記憶です。嫌だったけどやらされてしまったというか…」
何となくだが、想像はつく。「どんな反応をするだろう」「巻いたら面白いんじゃないか?」と彼女の祖父母のイタズラ心が湧く瞬間が。そして、眼の前では想像以上のリアクションで周囲は大笑い。そんな様子が手に取るようにわかる。
そう。彼女は天性の「イジられキャラ」なのかもしれない。だからなのか、その類のエピソードは、大人になっても事欠かない。
「ベレーザに上がって1年目とかに『何か一発芸やれ!』って言われたんですよね。当時EXILEが好きでEXILEのダンスを結構見て覚えたりしていたんです。そんな時にスタメンで試合に出ることになったのですが、緊張しているだろうからとチームメイトが曲をいきなり流して、そこで踊れみたいな。それがまた緊張しちゃうんですけど(笑)」
「三つ子の魂百まで」ではないが、イジられキャラはこれから先も、ずっと続くものだと思われた。まさかそれが足かせになるとは。
2022-23シーズン。村松は初めてベレーザのキャプテンを任されることになった。
「おちゃらけていることが多かったので、自分が見てきたキャプテン像というのとかけ離れていて、そのギャップに悩みました。キャプテンという立場でふざけたり、おちゃらけていて良いのかな、いつもふざけてたりしているから、締めなければいけないときに、どういうふうに言ったらいいかなって」
悩みながら、当初は自分ではない、いわば“キャプテンキャラ”を演じてしまったこともあった。しかし理想と現実の間で、徐々に立ち行かなくなる。「キャプテンとして何かを魅せるとか、何かを作りあげるみたいな格好良いことばかり考えて、悩んだり、わからなくなっていましたね」と、当時を振り返る。
ところで、そんな時期でも彼女を癒やしてくれたのは、彼女といえばお馴染み「劇団四季」だった。
毎日でも行きたいというそれは、母親の影響で2020年頃からどっぷりと沼にハマった。「とことんハマるタイプ」と自己分析するように、今では見方も玄人だ。
「魅力は作品をみんなで作り上げるというところですね。スタッフさんの衣装まで、その全てを劇団四季の中でやっているのですが、作品に関しても、まずはどのように理解するのかというところから作り上げているんです。作品主義なので、作品を大事にしつつ、でもその人の捉え方によって明るく言うのか、ちょっと暗く言うのかとかが変わってくる。そういうのがすごいですね」
てっきりキャプテンとしての立ち居振る舞いなどのヒントを探していたのかと思っていた。しかし、
「キャプテンとしての振る舞いを参考にしようと思ったことは全くないですし、それは生かせないと思います」
ときっぱり言う。一方で、もちろんサッカーとの共通点も感じている。
「自分たちは毎日同じことをやっているとしても、見に来てくれる人にとってはそれが大事な1回かもしれない。自分たちは明日もあるけど、お客さんにとってそれが全てだから、毎回を全力でやる。それってすごいなと。サッカーも同じだと思います。1回でどれだけ魅了できて、本気さみたいなものをどれだけ伝えられるか。お金を払って時間を作って、わざわざ来てくれてるからこそ、というのは本当に忘れちゃいけないなというのは、自分がお客さんの立場になって、より感じたことです」
キャプテンとして3シーズン目を迎える。自分の中のキャプテン像は、ある程度固まってきている。
「1回の練習を大事にする。一つひとつのプレー、パスに魂を込める。それを自分が本気で取り組んでなかったら、それは魅せられないよなと。キャプテン、キャプテンじゃないに関わらず、自分がサッカーをしていて、サッカー選手であって、チームの中でも年齢は上の方。そう考えたときに、自分のサッカー選手としてのあり方というのは、まずそういうことなのかもしれないなと思います」
と、今では肩肘張らず、自然体を心がけるようになった。「全くない」と否定はしたものの、劇団四季について語ったことと似ているような気もする。
昨シーズンのホーム最終戦で、「強いベレーザを取り戻します」と宣言した。
「強いベレーザを取り戻すためには、何が足りないのか。その『何』というのがすごく難しくて、具体的にこれが足りないっていうのがわかったら本当に楽だなって思うぐらい。でも毎日悩んで、もがきながらやっているこの瞬間っていうのがすごく楽しいです。ただ、ベレーザらしさっていうのを決めるのは第三者なのかなって思ったりもしていて、何だろう…」
深く考え込みながら、また言葉をつないだ。
「パスをつないで綺麗に崩して良いゴールを決めるのがベレーザらしさなのか。何でもいいからゴールを入れて勝つのがベレーザらしさなのか。本当に分からなくて、もしくは全てができるっていうのがベレーザらしさなのかなって思ったりもして。ただ、変なプライドじゃないですけど、練習ではきつくてとにかくきつくて、みんなでもがいて、苦しんで。でも試合になったら涼しい顔して勝つみたいなのは、自分がずっとメニーナの頃から見てきたベレーザの姿なので、もっと練習を苦しんでやらなきゃいけないとはすごく思っています」
「理想のキャプテン」は、そんなことをさらけ出さないのかもしれない。でも、ありのままを見せるのが村松のキャプテン像だ。
「『なんか綺麗に勝つよね』みたいな。でも裏では、めっちゃ苦しんで、走ってる。今はそれぐらいすっきりと勝てる試合がなかなかないので難しいんですけど、そのためには、もっと練習の中でやるというのが大事になってくるのかなと思っています。でも、そういうことは多分、お客さんには見えないじゃないですか」
ただ、もうここに書いてしまった。試合後、勝って涼しい顔をしている村松の姿を見たら、「いや、めちゃくちゃ頑張ってたやん!」って心の中でひっそりとイジってあげたい。
(写真 近藤篤)