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逆境を跳ね返す。その力がついてきたのは、第10節セレッソ大阪ヤンマーレディース戦からだろうか。前半に1点を先制されるも、後半メンバー交代などで盛り返し、61分に山本柚月のゴールで同点に追いついた。続く大宮戦では、なかなかゴールが奪えない中で交代出場の神谷千菜が終盤にゴールを決めて勝利。
そして、前節は味の素フィールド西が丘にサンフレッチェ広島レジーナを迎えた。試合の入りは良かった。8分、坂部幸菜、そして藤野あおばと2本の縦パスが通り、ボールを受けた北村菜々美がゴール右隅を狙ったコントロールショットを決めて先制。3分後には藤野の直接FKがゴールを襲うも、これはGKがセーブ。15分には右サイド山本柚月のクロスに宮川麻都が頭で狙うが、これもGKが触り、さらにクロスバーに直撃して追加点とはならない。前半を1-0で折り返したが、63分にアクシデントが起こる。宮川が負傷交代。チームとして嫌な流れになると、76分に不運なPKを与えることになってしまう。これを決められ試合は振り出しに。これまでであれば、このまま試合は終わっていたかもしれない。だが、ここからが今のベレーザのたくましいところだ。今節はベンチスタートとなった鈴木陽が失点直後の79分に登場。そして、88分だった。ペナルティエリア内でボールを受けた土方麻椰がワントラップからシュート。GKが弾いたところを鈴木がダイビングヘッドで押し込む。鈴木の移籍後初ゴールで勝ち越しに成功。さらにこのゴールは、ベレーザのWEリーグ通算100ゴールというおまけ付きとなった。また一つチームとして強くなったベレーザが、開幕戦以来となるホーム2勝目を挙げることに成功した。
今のベレーザの強さは、切磋琢磨する環境が整ったことにあるのかもしれない。上述のように第11節では神谷が途中出場で決勝ゴールを決め、今度は鈴木が途中出場から決勝ゴールを決めた。途中加入のFW2人の争いは、今後も楽しみになるだろう。また宮川の負傷後に入った岩﨑心南は、しっかりと役割を全うした。AFC U20女子アジアカップ ウズベキスタン 2024で得点王という結果を残してチームに戻ってきた土方は、決勝点を導く活躍を見せた。これまでチャンスを何度も作ってきた北村も、チーム最多タイとなる4ゴール目をマーク。ピッチに立った選手が、その個性をいかんなく発揮することができている。この流れを続けていきたい。
今節の相手マイナビ仙台レディースは前節、ちふれASエルフェン埼玉と対戦した。5分に高平美憂のクロスを中央で石坂咲樹がボレー。ボールはクロスバーに直撃するが、跳ね返りを廣澤真穂が叩き込んでマイ仙台が先制に成功。EL埼玉の10番、吉田莉胡を中心に破壊力のある攻撃を受けるも、守備陣が耐えて前半を1-0で折り返す。しかし、79分に栃谷美羽のクロスを金平莉紗が合わせて同点。ホームのマイ仙台は流れに飲み込まれそうになるが、90+4分だった。ゴール正面、距離は約20mの地点でFKを獲得。これを佐々木里緒が直接沈めてマイ仙台が劇的勝利を収めた。
マイ仙台との前回対戦では5-0で大勝した。だからといって、気を緩めると痛い目を見るだろう。それよりも、今節は自分たちに目を向けたい。WEリーグが始まってから、ベレーザの連勝は21-22シーズンの第12節~第15節の4連勝が最多。続いて22-23シーズンの第12節~第14節、第22節から23-24シーズンの第1節~第2節の3連勝が2度。現在、第11節から2連勝中。奇しくも、この時期は連勝が続く時期だ。3連勝と言わず、4連勝、そして新記録へ。勝ち続けること。今のチームなら、それは不可能ではない。
太陽のように明るく育ってほしい。だから「陽」と名付けられた。
3月24日、味の素フィールド西が丘で行われた第12節サンフレッチェ広島レジーナ戦。88分、土方麻椰の放ったシュートをGKが弾いたところを頭から飛び込んでゴールに押し込んだ。トレードマークの笑顔がようやく輝いた。
ベレーザに移籍後5試合目にして、待望の初ゴール。これまで何度もゴールに近づいていたが、あと一歩のところで決まらなかった。「でも1点を取るために毎日、もうどんなことがあっても乗り切る!って」。
気持ちの強さは幼い頃から。とにかく負けず嫌い。それを象徴するエピソードは保育園の時だ。「今でもお母さんに言われるのは、逆上がりがどうしてもやりたかったらしくて、朝から晩までやっていたみたいです。手は血だらけ、血豆だらけになっているのに(笑)」。
その時と気持ちは何ら変わりない。鉄棒がボールに変わっただけだ。ゴールを取りたい。その気持ちは誰よりも強い。しかし――。本人はこう分析する。「『取りたい』と『取らなきゃ』っていう気持ちがあったとして、『取らなきゃ』って思っちゃってる時は前向きになれていなくて、自信も持てていない時かなと。5試合も取れていなかったから、今までは『取らなきゃ』が強かったと思います。『取りたい』が上回ったときの方がメンタル的には良いのかなと」。そうして前節の試合前「覚悟を決めた」と言う。ここで点を決める、このチームで点を決めるという覚悟を。もう迷いはなかった。それが、あのゴールにつながった。
チームの勝点3に貢献したゴールは、ベレーザのWEリーグ通算100ゴールというメモリアルゴールにもなった。「持ってる?いや、そんなことないと思いますよ。ただ…」。語り始めたのは、AC長野パルセイロ・レディース時代の話だ。「それまでは交代出場ばっかりだったんですけど、初めてスタメンになった試合でハットトリックしたんですよ。その時は、みんなに『持ってるね』って言われました」
だが、続けてこうも言う。「代表とかもケガで離脱しましたし、結構持ってないんじゃないですかね」。U-20女子ワールドカップフランス2018は右膝前十字損傷で棒に振っていた。太陽も陰るときはある。振り返れば、これまでのキャリアを見ても順風満帆というわけではない。「中2くらいの時は上手くいかなくて辛い時があって、サッカーをやめようと思ったこともあったんですよ」。それでも何とか踏みとどまった。様々なチームを渡り歩き、ブラジルに留学もした。「字幕なしの映画の世界に飛び込んだみたい」と表現するような、言葉の通じない世界。サッカーでも「1回ミスをしたら、もうパスが出てこない。ボールを奪うための執念もすごかったですし、あのときの感覚は自分の中でも衝撃を受けました」。それでも明るく前向きに、サッカー漬けの日々を楽しんだ。約1ヶ月はあっという間に過ぎたが、帰国する頃にはこう言われたという。「留学生として行ったんですけど、帰ってから選手として来て欲しいって言われたんですよ」。
「信念の中に『上手くなりたい』が一番にあるから、『そのためにどうするか?』、で選んできた人生です」
その原点は何なのか。子どもの頃の夢はサッカー選手になること、ではない。その、もっと先を見ていた。
「小さい頃にロナウジーニョ選手を見て、サッカーって本当に面白いって思いました。サッカー選手になるというのはその過程。自分もプレーすることで世界中の子供たちにサッカーの楽しさを伝えたいなって」
西が丘でプレーをする。当然、ベレーザのファン・サポーターは彼女を応援するだろう。でも、それだけでは満足できない。鈴木陽のプレーを見た子どもたち、またすべての人に、サッカーの楽しさを知ってほしい。ベレーザの太陽はより遠くまで照らし続ける。
(写真 松田杏子)