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いま、山田剛綺が大きな壁を乗り越えようとしている。
プロ一年目の昨季は30試合に出場、3ゴールを記録。環境にも慣れ、さらなる飛躍を期待された今季だが、ここまで全24試合中12試合の出場にとどまり、未だゴールをあげられていない。
4歳上の兄が始めた影響で、幼稚園の頃にサッカーと出会った。初めて“選抜チーム”に選ばれたのは中学校の終盤だけ。小学、中学と、決して注目を浴びる選手ではなかったが、それでもサッカーはずっと楽しかった。さらに京都橘高等学校で2年生時に全国高校サッカー選手権大会に出場し、プリンスリーグ関西では得点王に輝くと、関西学院大学では2022年関西学生サッカーリーグで大会MVP受賞と、才能を開花させたことで、よりサッカーが大好きになった。
そして2023年、東京ヴェルディでプロデビューと、着々とステップアップを続けてきた山田剛だったが、今年、人生初ともいえる挫折を味わっている。
開幕戦の横浜F・マリノス戦、第2節浦和レッズ戦と、後半から途中出場するも、結果を残せず。何よりも辛かったのが、「自分が入ってから失点したこと。直接失点に絡んだわけではなかったのですが、チームがそれまで勝っていたのに、自分が出て負けたり引き分けるというのは、途中出場の立場としては、すごく精神的にくるものがあって…」
第5節の京都サンガF.C.戦で、今季初スタメンのチャンスをもらったが、「何もできずに前半だけで交代でした」。その試合以降、10試合ベンチメンバーにも入れない日々が続いた。
「最初はずっと、モヤモヤしながら過ごしていましたね」
苦悩の日々を振り返り、山田剛は表情を曇らせた。“モヤモヤ”の正体は『迷い』だった。
「迷いながらサッカーをしていた自分が一番イヤで。何をやってもうまくいかない。『どうしよう。どうしよう』と思いながらプレーしていることが、本当に辛かったです」
そんな山田剛の沈んだ様子をいち早く察知し、声をかけてくれたのが翁長聖だったという。
「4月のはじめ頃、僕が試合に出られていない時期に、ヒジくんが『試合に出ても、出なくても、とにかくやり続けろ』と言ってくれて。悩みを話した時には、『その時間は無駄や!もう割り切って、前を向いてやれ。そうすれば必ず誰か見ているから』って。その言葉があったから今の自分があると思っています」
さらにもう一人、平智広(現・ツエーゲン金沢)の言葉にも勇気づけられた。
「平さんが『お前はこんなところで腐るな』と言ってくれて、すごい気が楽になったんです。それに、日頃の平さんのサッカーやチームに対する姿勢を毎日見させてもらって、『もっとやらなくちゃいけないな』と思わせてくれました」
そうした、心ある先輩からの前向きな言葉に鼓舞され、あらためて自分自身と向き合い、「とにかくやれることをやろう」と決意。「今のままじゃダメだ」と、昨年から続けている練習後の自主練やシュート練習、筋トレに加え、さらに試合後にクラブハウスに戻り、翁長、山見大登とともに筋トレをすること、週1回、能城裕哉コンディショニングーコーチから『モビリティ』という、体の動かし方を教わるなど、練習量、メニューを増やしパフォーマンス向上に努めている。
「本当に、今年はとにかく『やり続ける』ことにトライしようと思っています。良い時も悪い時も、たぶんこの先もいっぱいあると思いますが、自分で『やる』と決めたことは一年間貫いて、『これだけやったんだから、それでミスするならしょうがない』と思えるぐらい徹底的にやりたいなと。その力ってすごい大事だなと思います」
そんな必死な姿に、チームメイトたちも感化されないはずがない。翁長、山見との試合後の筋トレに、最近は綱島悠斗、林尚輝、千田海人らも加わっているという。チームに好影響をもたらすという意味でも、着実な成長を遂げていることは間違いないと言えよう。
また、もうひとつ自分を奮い立たせてくれるものがある。同じ関西学院大学出身の山見と木村勇大の存在だ。縁あって、今季から再びチームメイトとなったが、山見は4点、木村は9点と、FWとしてそれぞれ目に見えた結果を残している。
「正直、悔しいといえば悔しいですね。ただ、2人と特長も違うので、普段比較したりはしません。それに、全部が全部負けているとは思っていなくて、自分には自分の良さがあると思っています。とはいえ、2人が結果を残していることは素直にすごいと思いますし、燃えないわけないです。自分ももっともっと『結果』というところにはこだわってやっていかなければいけないなって思いますし、プラスで、自分の彼らに負けない良さというところももっと出してきたい。チームに絶対的に必要な選手になりたいと思っているので、焦らずにやり続ければ、自ずと結果がついてくることを信じてやるしかないです」
その中で、徐々に出場時間が延びてきていることも確かだ。山田剛自身も、「少し戻って来た気がします」と、迷いから解き放たれつつある感触を得ているようだ。7月28日に行われたブライトン&ホーヴ・アルビオン(プレミアリーグ)との親善試合でも、後半19分からの出場ながら2回も決定機を作り、ゴールの匂いを感じさせた。
「チームとしてやりたいことと、自分がやるべきことというものがだいぶ明確になってきているなと感じます。それは、みんなが僕の特長を出しやすい形をわかってくれて、見てくれることが多くなったのが大きいですね。自分は『出し手』というより『受け手』に回ることが多いので、『出し手』の選手が自分を見てくれることが増えた分、チャンスを作る回数やチャンスに絡める回数が増えてきたなと思います」
山田剛といえば、背後への抜け出し、ヘディングの強さが大きな持ち味だが、もう一つ「守備も嫌いじゃない」というのも武器だ。
「攻撃ももちろん大事ですが、中学、高校の時から『良い守備から良い攻撃』と言われていたので、今でも自分は守備からチャンスは来ると思っています。この考えがFWとしてどうなのかわかりませんが(笑)、僕は、もちろん点は取りたいですが、チームが勝つことが何よりもすごい嬉しくて。なので、勝つためになら走れるし、守備もぜんぜんイヤじゃない。点が取れなかったら何もできない選手になりたくないので」
チーム思いの一面も、23歳FWの魅力なのである。
他の多くの選手も感じているように、プロ2年目にして立てたJ1の舞台は、やはり昨年経験したJ2とは一味違うと山田剛も感じている。
「どの選手もフィジカルが強いですし、1つ1つのプレーの質が高いなと思います。プレスに行った時も、『これは絶対に取れただろう』というぐらい良い守備をしても、それを交わされて逃げられたりすることも少なくないです。
それに、日本代表の選手や元日本代表の選手など、テレビなどで見ていた選手たちと試合ができるというのは純粋にすごく楽しいですし、『その選手に勝てば(代表レベルということ)』みたいなモチベーションでできるので、それもまた一人のサッカー選手としてすごく楽しいなと思っています」
今節対戦するサンフレッチェ広島の佐々木翔選手は、「今年対峙して、一番強いと思った選手」だと山田剛は目を輝かせる。
「能力の高さはいうまでもなく、戦い方が賢いというか、競り合いの時も先にぶつかってくるとか、飛ばせないようにするプレーが上手い。一緒に飛んでも、佐々木選手のほうが頭1つ抜けているという感じて、とにかく強かった。僕はFWで、佐々木選手はDFとポジションは違いますが、僕もあれぐらい迫力を持った選手になりたいなと思います」
日本屈指のDFとの勝負に勝ち、「まず1点取りたい」と燃えている。
「もちろん、早く点を取りたいという気持ちはあります。でも、それ以上に、チームが勝つためにやることが自分のモットーですし、そこが自分の最大の評価なのかなとも思っています。チームが勝つということは、守備もしっかりとできているということなので、チームが勝つために点も取りたいですし、守備のところも決しておろそかにせず、どちらも天秤にかけながら、いい塩梅でプレーできればと思います。でも、やっぱり点は取りたいですね(笑)」
前半戦に抱え込んでいた、「どうしよう」という“迷い”はなくなった。名言・『継続は力なり』の正しさを、背番号27は必ずや証明してくれるはずだ。
<深堀り!>
Q:山田剛選手は、練習の時も含め、いつも誰かと一緒にいる印象があります。人懐っこい性格なのですか?また、昨季まで常に一緒にいた飯田雅浩選手と今は離れています。
A:けっこう寂しがりやなので、常に誰かといたいタイプですね。一人でいるのが嫌いなんですよね。なので、家に帰ったら一人なので、クラブハウスにはムダに長くいると思います。それで、トレーナールームへ行ってちょっとしゃべったりしています。
マサとは、実はこの間も会っていましたよ。こっちに帰ってきていたので、稲見哲行くんに焼肉に連れていってもらいました!マサが離れてしまって、最近は誰といることが多いかなぁ。ヒジくんとか山見くんとかとは、クラブハウスとかでは一緒にいたりします。マサは1人やったんですけど、ヒジくんも山見くんも家庭があるので、なかなかプライベートで「どっか行こうぜ!」とはならないんですよね。
その意味では、河村匠くんと一緒にいることが多かったんですけど、期限付き移籍しちゃって…あと、永井颯太くんも、ご飯に連れて行ってくれたり、一緒に温泉に行ったりしていたのですが… なので今は、パートナー探し中ですね。
候補は、(食野)壮磨かな?同じ関西人ですし、壮磨とは関西選抜の時に同じ部屋で、4人部屋のうちの一人だったので、何となく気心が知れている気がします。あっちからもけっこう来てくれるので、なんか一緒にいやすいです。
(文 上岡真里江・スポーツライター/写真 近藤篤)
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