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Special Column
ある日のトレーニング。紅白戦の最中に、城福監督が声を張り上げてマリオ・エンゲルスのもとに歩み寄った。
「マリオ! ミーティングで見せた映像を忘れたのか! そういうプレーがあったから、この前の試合で失点につながったんだぞ! 分かってるのか!」
マリオは、自身へのファウルがあったとしてプレーを一時止めており、奪われたボールを追いかけていなかった。その光景を見た城福監督が雷を落としたのだ。マリオはというと、少し不服そうだ。
当然、ピッチ内には緊張が走った。そして再開された紅白戦では、ボールを必死に追うマリオの姿があった。球際にも殊更に激しい。
トレーニング終了後、うつむきながらピッチをあとにするマリオには加藤弘堅が近づいて声を掛けていた──。
「マリオには、『こらえて、やろう』と声を掛けました。確かにミーティングでは同様の場面を映像で振り返っていたので、選手としてはそれを表現しないとダメ。実は以前、自分も同じようにみんなの前で映像を使って指摘されたことがありました。悔しいし、正直イラっとします。でもその時、自分にも少し甘さがあったのだとも思いました。城福さんは周りに示す意図があったのかもしれないですよね。締めるところは締める。経験ある城福さんは、そのあたりが本当にうまい」(加藤弘堅)
マリオというと、次の試合も、また次の試合も先発で出場した。ただ、このところは出場機会を減らしている。前節・いわき戦の試合後、城福監督は途中出場したマリオのあるプレーについて言及した。
自陣で相手選手と接触したマリオが頭部を痛めた場面だ。
「(負傷の状況は)いまのところは問題ないと聞いています。おそらく今までであれば、あのシーンで彼は(ボールに対して)頭から行かなかったと思います。なぜ彼がピッチに立てないのかというところを、われわれは辛抱強く彼にアプローチしてきたひとつの成果が今日出ました。彼にアシストや得点をしてほしかったですが、ひとつ彼がピッチに近づく大きなプレーをしたと思っています」
いまのヴェルディに城福監督が求めていることの一端が見えただろう。ひいては、リーグ最少失点という結果が出ている理由も。誰一人、局面で力を抜く者がいない。力を抜いているようなら、試合には出られない。
「監督からは、常に練習から100%でやるということを言われています。それをやっていればチャンスはもらえると思います。監督は、自分のもっているものを信じてくれていますし、アシストなどで結果を出してくれと言われます。試合に絡めていない時期もあったということは、まだ足りないということ。どの選手も得意、不得意があるけれど、戦う姿勢を出せればいい」(マリオ・エンゲルス)
きっと仙台戦でも、球際に全力で挑み、奪われれば全力で戻る選手たちの姿がピッチにはある。
その中には、マリオも含まれるだろう。その上でマリオは、スピードのあるドリブル突破や高いキック精度を生かして得点やアシストといった結果を目指すはずだ。
城福監督が示す“やるべきプレー”をした先に、勝利をつかめると信じて。
(文・田中直希 エルゴラッソ東京V担当/写真・近藤篤)
Match Preview ベガルタ仙台戦
前節のいわきFC戦では、主導権は握りながらも0−0のスコアレスドローに終わる悔しい結果となった。特に前半は、攻撃の形は作りつつもシュート数は1本。後半を合わせても6本に止まり、「ボールを持てているだけではダメだとあらためて痛感した試合でした。得点力は自分たちが伸ばすべき部分。守備が良くなっている分、これからもっとチャレンジして、自分ももっと貪欲にゴールにつながるプレーをしなければ」と、稲見哲行は浮き彫りになった課題を真摯に受け止めていた。
そうした反省を教訓に、今節は始動から城福浩監督が求め続けている早いタイミングでクロスボールを入れることやミドルシュートなど、ファイナルサードでの動きやパスコントロールの質などの部分で、より積極性が見られることに期待したい。
今節の対戦相手ベガルタ仙台は、2010年に二度目のJ1昇格を果たし、2021年まで12シーズンJ1で戦い続けたクラブである。昨季は13年ぶりのJ2で7位に沈みプレーオフ進出も逃したが、選手層はJ1クラスであることは間違いない。
現在9位につけている中、前節、第12節以降複数失点がなく第15節から3試合連続無失点を記録していたジェフ千葉から前節2ゴールを奪い、4戦無敗と好調だ。特徴的なのが、FWのみに限らず、MF、DFとどのポジションの選手でも得点を奪えているという点だろう。
中でも郷家友太、氣田亮真の両ワイドは得点力が高いだけに、対峙する宮原和也、深澤大輝、加藤蓮らサイドバックとの攻防は大きな鍵となりそうだ。
特にフィールドプレーヤーとしては唯一、開幕から全試合フル出場が続いている宮原には注目したい。J1で129試合出場の経験を経て今季からヴェルディへ加入したが、その安定した守備力、危機察知力などは別格と言っても過言ではない。J1クラスの仙台の攻撃陣を封じ、この試合でも圧巻のプレーでファン・サポーターを感嘆させてくれるはずだ。
いわき戦の引き分けをうけ、今週、城福監督は選手たちに徹底してきたことを再確認すべく、“クレイジー”というフレーズを用い、問うたという。「ヴェルディというチームは、何がエクセレントなのか。クレイジーなことにこだわって取り組んできたのに、果たしてこれ(いわき戦)が、クレイジーなことをやれているのか?」。
それは、決して新しいことを求めたわけではないと指揮官。
「クロスの入り方など象徴的なものはありますが、それだけではなくて、サッカーのセオリーから見たら、リスクが大きすぎるのでははいかというようなことも含めてクレイジーなことをやり続けることが、このチームの持っている能力を押し上げることになると思う」。
相手陣内でできるだけ長い時間ボールを動かすための、前線からのロジカルなハイプレスと高いリスクを伴うハイラインという、今季のチーム始動時から続けているチャレンジを続けていくのみだ。
現在、失点数の少なさはリーグトップを誇っているが、「守備的なサッカーをやっているわけではない中で最少失点だというところがものすごく大事なこと。相手陣でサッカーをやりながら、結果的にリーグで一番失点が少ないということは、我々が今年目指しているものの一つの証ではある」と、城福監督は選手たちを讃える。
攻め続けた結果、無失点に抑え、今節こそ、4月12日(第9節)以来のホーム戦勝利を飾り、ゴール裏のファン・サポーターとともに歓喜のラインダンスを踊りたい。
(文・上岡真里江 スポーツライター/写真・松田杏子)
Player's Column
「ちゃんと良いこと言ってますか?(笑)」
北島祐二に話を聞いている時だった。横を通った小池純輝が、笑顔で言葉をかけてきた。
ちょうどたった今、「ヴェルディは、ベテランの選手や影響力のある選手が、どんな状況でも100%で練習をやっている。特に純輝さんは、キャンプの時からずっと良いパフォーマンスを続けていて、どんな状況でも練習でも練習試合でも、本当に毎日100%で取り組んでいて、さらに後輩にも気を配ってくれて、話しかけてくれます。そういう選手がいるというのは、本当にチームにとって大きいと思います」と、小池へのリスペクトを話していたばかりだ。
そう伝えると、「祐二、さすが上手いね〜(笑)」と、小池はごますりのポーズをしながら立ち去っていった。
そんなやりとりの様子が、東京ヴェルディに来て約5ヶ月、すっかりと馴染んでいることを象徴していた。
福岡生まれ、福岡育ち。
5歳からアビスパ福岡のスクールに通い、中学、高校とアビスパ福岡のアカデミーで揉まれ、2019年にトップ昇格を果たした生粋の福岡っ子が、慣れ親しんだ地を離れ、東京行きを決めたのは、「試合に出ることと、J1昇格という目標を達成するため」だ。
目的通り、第18節が終了しここまで14試合出場、J初ゴールを含む2得点。特に直近は5試合連続でスタメン起用されており、新天地で早くも欠かせぬ存在になっている。
出場試合数、ゴール数ともすでにキャリアハイの成績だが、北島自身、そこに満足感は微塵もない。
「今は出られていますが、序盤戦はベンチ外の時もあったので、危機感を持ちながら毎日練習しています」。
毎週試合に出続ける。そんな、プロとして望んでいた日々を過ごす中で、また新たな課題が生まれている。
「毎試合出て、良いパフォーマンスを継続するという経験は、今までやってこれなかったこと。5年目ですが、どれだけ波を作らずに良いプレーを継続できるかというのは初めてのチャレンジで、でもそのチャレンジができるようになったのは、今までのもがいた経験だったりがあったからだと思っています。だからこそ、この今の出番がある状況を手放したくない。一喜一憂せずに、『次の日、次の試合』と思ってやっています」。
その中で、最も意識しているのが「頭の整理」と「コンディション調整」だ。
「その試合で自分のプレーの何が良くて、何が悪かったのかというのを、毎試合2回ぐらい振り返って見ます。そこで、『もっとこうできたな』とか『ここは良かったな』というのをしっかりとまとめて、頭の中を整理する作業は必ずしています。
コンディション面も大切で、連戦もあるので、自主練をやりすぎないということを初めて考えるようになりました。今までは、結果が欲しくて自主練をやりすぎて疲労したり、密かに痛みを抱えながらプレーしていたこともあったのですが、それでは良いパフォーマンスが維持できるはずがありません。今は、結果にこだわりすぎずに、とにかく毎日の練習も、試合も、自分の体の100%の状態で臨めるように練習のボリュームを調整しています」。
これまでは、ただただアピールすることに必死だった。だからこそ、徹底的にやり込んで、追い込むことで感覚を掴んできた。
だが、痛みを抱えながらプレーしてハイパフォーマンスがコンスタントに維持できるほど、プロは甘い世界ではない。
特に城福監督、今のヴェルディが目指しているサッカーは、最初から各々のフルパワーを出し切ることが求められている。仲間たちからバトンを受け、次にしっかりと繋ぐという責任を果たすためには、コンディション調整もまた、プロとして重要なテーマだということを学んでいる。
スタメンとしてもだが、序盤戦、途中からの出場も少なくなかった。その中で、しっかりと持ち味を発揮し、チームに貢献してきたその姿は、城福ヴェルディの1つの象徴とも言えるのではないだろうか。
指揮官は、先発メンバーの役割と同様、“ゲームチェンジャー”という交代選手の存在価値も非常に重要視している。
90分間インテンシティの落ちない、もっと言えば、ゲーム終盤に向けてさらにギアを上げられる戦いを追求している中で、チーム屈指の前への推進力を持つ北島の存在は、どの時間帯から投入しても、相手にとっては大きな脅威となることは間違いない。
当然、本人にとっては、「スタメンで出ることが目標」だ。
だが、今の戦い方を考えれば、「スタメンで出られないとしても、途中から出る選手の仕事の重大さというのは、他のチームに比べて大きいですし、だからこそ、『途中からだけど、やってやろう!』と、選手全員が思っています」と北島。
「その選手1人1人の精神的な強さが、今、ケガ人が多く出ているこの状況でも、簡単に折れないゲームができている要因なのかなと思います」と、分析する。
序盤戦、なかなか思うように試合に絡めない状況が続いた中で、しっかりと課題と向き合い、爪を研いできた。
「ゴール前には行けるけど、シュートやゴール前での質など、そこからが課題だとは自分でも感じていました。それに、細かなミスも多くて、簡単なプレーでボールをロストしたりしていたので、映像を振り返りながら無くす努力はしました」。
その積み重ねによって得点も奪えるようになってきたことで、確かな手応えを感じられている。
「自分の持ち味であるドリブルや狭いスペースでのターンからのシュートだったりは、プロに入ってから、ここ最近が一番持ち味を出せているとは思います」。
一方で、自身のこれまでの失敗傾向も理解している。
「毎年、『この時期は良かったよね』という、一過性の状態の良さで終わっていたのが今までの僕でした。なので、本当に今の持ち味をしっかりと出せている状態をシーズン終わるまで継続させて、チームの勝ちに貢献し続けることを一番大事にやっていきたいです」。
そう話す表情は充実感で満たされてる。まだまだ発展途上の22歳の成長が楽しみだ。
初めての東京暮らしは快適そのものだ。大好きなサウナも、すでに3〜4ヶ所行きつけができた。
面倒くさがりの性格なので、料理を作るのは好きだが、「お皿を洗うのとか、メニューを考えるのも、食材を買いにいくのが面倒なので」自炊はほとんどしない。
それでも、どこに行ってもおしゃれで美味しいお店がたくさんあり、自分次第では栄養価のコントロールもできるので、外食でも困ることはない。
次男だけに、不思議と先輩の懐に入るのがうまい。おかげで、早々からチームの先輩からも可愛がられ、チームメイトたちともすんなりと打ち解けられた。
そんな充実した新天地での日々だが、最も心を掴まれているのが、ヴェルディサポーターの熱さと温かさだという。
「ヴェルディのファン・サポーター、熱くていいですね!アウェイでもたくさんの人が来てくださいますし、時にはホームチームのサポーターのゴール裏よりも多い時もあるぐらい。それが本当に心強くて。そして、一番は、選手全員にチャントを作ってくれること!そんなクラブなかなかないですから。僕はレンタルですが、『自分もヴェルディの一員なんなんだな』という思いが、自分のチャントを聞いていると自然と湧いてきて、奮い立たされます。宝物ですね」。
実は、北島のチャントはチームメイトたちにも大好評だという。「僕ももちろんなのですが、僕だけじゃなくて、みんな僕のチャントをそこら辺で口ずさんでるんですよ(笑)『キタジマユウジ アレアレオ〜!」って、すごく耳に残るチャントなので、マテさん(マテウス)はじめみんなロッカーとかで歌ってます。僕を呼ぶのに『アレアレオ』って呼ばれたりしますから(笑)」
今では自分のチャントを聞くことが、スタジアムでの1つの楽しみになっているほどだ。
「毎試合、本当に多くのサポーターの方の声のおかげで僕たちは“あと一歩”を踏み出せます。結果が出ない時も、ブーイングではなく、拍手やチャントで後押しをしてくれることが本当に力になっています。残り半分ちょっとですが、絶対にまた苦しい時期は来ると思います。そんな時には、また選手と一緒に踏ん張って、戦ってくれたら嬉しいです。これからも変わらずに、熱い応援をよろしくお願いします!」
“宝物”の大合唱を聞きながら、必要とされることの悦びを胸に最高のパフォーマンスを出し尽くす。
(文・上岡真里江 スポーツライター/写真・近藤篤)