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インタビューの先行きが、なかなか見えなかった。
「最近興味のあることはなんですか?」
という、ありきたりに思える質問をぶつけたのだが…。
「え?なんですか?なんだろう(笑)」
独特のゆっくりとした話し方と、屈託のない笑顔。はぐらかされているのだろうか。いや、そうではないだろう。
「じゃー、サッカー以外の時間は何をしていますか?」
「え?何してるんだろう?家にいます」
コロナ以前はアクティブ派だった。自転車で東京タワー、東京スカイツリー、羽田空港など、遠出をして、景色を見て帰るということを趣味としていたそうだ。片道3時間をかけて行ったときもあるという。だが、コロナ期間に入って、そうした趣味も途絶えてしまった。
「最近は年を感じて…(笑)寝るのが好きなので、オフの日は昼くらいまで寝ています」
実に掴みどころがない。
「学生時代に好きな科目って何だったんですか?」
「うーん、国語ですかね。漢字とかは好きです。そういえば、四字熟語にハマった時期がありました。4つ漢字があって、それで意味をなしている。四字熟語って格好良いなと思って、ちっちゃい本を買ったりしていたんですよ」
「好きな四字熟語って何ですか?」
「え?何だろう?そんなの考えたことなかった(笑)本当に、ただただ興味本位で、ちょっとは覚えたけど、使うことはないし…」
依然、先行きは不透明だった。
糸口が見えてきたのは、彼女のこのような発言からだ。
「『何かのためにやる』というのが苦手なんです。サッカーでも、何かができるようになるために練習するというのはもちろんなんですけど、それより先に、これをやったら楽しいとか面白いとかが先行してくる。その感じが、今まで生きてきて結構多いのかなって。だから計画性みたいなものはまるでないですけど(笑)」
彼女の行動の動機は、ただ楽しいから、面白いから。人に話すため、話題になると思って行動を起こすのではないのだ。そして、先を見据えるのも得意ではないと言う。
「1年の目標は考えますよ。みんなに聞かれるから(笑)けど、多分みんなより目標はないと思います」
では今季の目標とは何だったのだろうか?
「一番の目標はベレーザで、自分の力で優勝すること」
と言って憚らない。
「プロ1年目とかは3冠を目指すのが当たり前だったんです。そのときはなかなか試合にも出れなくて、自分が何かをしたというわけではなかったので。今はコンスタントに試合に出してもらって、中心としてできている実感はあるので。その中でタイトルを取りたいというのが何よりも一番の目標です」
個人としてやるべきことは、ズバリ「ゴールを奪うこと」だという。
「もちろん昨季1ゴールしかできなかった悔しさはありますし、絶対にタイトルを獲るというところで、自分がゴール取らないといけないとは感じていたんですけど、今まで口だけだったので。いろいろな人の移籍があって、今季はより強く感じたのかなって思っています。あとは、去年はほとんどボランチやっていましたが、今季はシャドーやFWをやっていたので、そうなればボランチのときより結果。点取るのが全てぐらいの思いでやっていますし、そこが仕事だと思うので。それで今は点が取れているのかなと思っています」
お気づきの方も多いと思うが、今季から菅野にはゴールパフォーマンスが加わっている。手で双眼鏡を象ったポーズ。それを何度も目にする機会があった。その意味は?
勘の良い方なら分かるかと思うが、これは背番号の「8」を示している。でも、それだけではない。これは今季から水原FC Women(韓国)に完全移籍をした西川彩華と約束を交わしたポーズだったという。昨季までともに戦った仲間に対し、
「遠い韓国にいたとしても、彩華を見ているよ!って」
自分のこと、少し先のことは見えないが、遠く韓国にいる仲間のことをファン・サポーターとともに見ている。「彩華も点を取ったらやってくれると思います。忘れていなければ(笑)」。
「やっぱり得点を取れるようになったのは、そのポーズのおかげかもしれないです。約束したおかげ。『人のため』と言ったらおかしいかもしれないですけど、人が見ていると思ってやるのって、やっぱり違うと思うんです」
そして――
2024-25 SOMPO WEリーグ開幕戦、ベレーザは三菱重工浦和レッズレディースと対戦し0-2で敗れ、最下位スタートとなった。
「みんなは、『最下位だよ…』って悔しそうにしていたんですけど、自分は最下位から優勝したらすごくない?って話をしていました。全チームを抜いて一番上にいたら格好良いじゃないですか。だからこそ、そこは目標というか、絶対にタイトルを獲るぞって思っています」
ベレーザは前半戦を終えて首位で折り返すことになった。後半戦はその場所をキープし続けなければいけない。
「ベレーザがいるべき場所に戻ってきたんだなっていう実感があるので、後半戦が本当に楽しみになっています」
ベレーザのWEリーグ初優勝に向けて。菅野奏音は、その青写真もきっと見えている。
(写真 近藤篤)