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2024.10.25 ベレーザ

Beleza Player's Column #4

追いかける人

ものを書くときに困るのが、漢字の使い分けだ。そのうちの一つ、「ついきゅう」も難しい。「追求」なのか「追究」なのか、はたまた「追及」なのか。ただ「追及」の場合は簡単。「責任を追及する」、「犯人を追及する」などに使われる。

 

「松田紫野は『ついきゅう』する人だ」

 

例えばこんな文章を書きたいと思ったとき、それが「追及」だとしたら、ただただ感じの悪い人になる。すぐに責任転嫁されそうで嫌だ。これでないことは明確である。

 

「松田紫野は『追求』する人だ」

 

だったらどうだろう。この場合の「追求」は、「理想を追求する」などの場合に使われ、文字通り「追い求める」という意味になる。

 

「サッカー以外ではどんなことをしていますか?」

 

そんな質問に対して、彼女はこう答えた。

 

「自由気ままに過ごしています。本当に好きなことだけをしています」

 

彼女は幸せを追求している。その幸せとは具体的に何なのか。

 

「とにかく美味しいご飯を食べに行っています。グルメオタクなんです」

 

日々の厳しいトレーニング。「例えば筋トレとかは、自分にプラスになりますし、大事なのはわかっています。それでもキツいなと思うときはあります。でも、自分は楽しいことがあると頑張れるんです。それも、ちょっとしたご飯でも楽しみにできるタイプなので」。

 

「三度の飯より〇〇が好き」という人もいるが、松田の場合は逆。何にもまして三度の飯。その中でも、松田と言えば「餃子好き」というのは有名な話だ。そのとき、

 

「松田紫野は『追究』する人だ」

 

にもなる。

 

ちなみに、この「追究」は学問や真理などに対して使用される。某サイトで「餃子百名店」が紹介されているが、「東京には数年前は40軒くらいあって、それを制覇したいなと思って。自分の行ける範囲だったらほぼ回ってしまいました」と言うように、松田は餃子を究(きわ)めようとしている。「餃子の話なら一生話せます」というのは伊達ではない。

 

「餃子に白米、そのコンビが最強です。タレは、酢と醤油が1対1と決めています。最近は酢コショウしかない店もあったりして、それはそれで新しいなと思って食べますけど。あと手作りの餃子が好きだから、冷凍餃子はあまり食べません。自分で作ったりもしますし、誰かが作っているのを見るのも好き。店に行って、作っている作業を見るのが好きなんです」

 

餃子にハマったきっかけ。それは彼女にとっては痛ましい、大きなケガだった。

 

2022年8月、アメリカ遠征中に負傷。右膝前十字靭帯損傷および半月板損傷、全治は約9ヶ月と診断された。「ほとんど怒ったこともないですし、感情の上下もほとんどない」という彼女だったが、「そのときはさすがにキツい時期もありましたね。リハビリがうまくいってなかった時期もありましたし。でも、そんな時に家に帰ってさらに落ち込むより、自分の好きなことがあればプラスマイナスゼロになるんじゃないかなと思って。何かで発散というか、楽しみが必要だったので、そのときに餃子にハマったのかなと思います。もともと餃子は好きだったのですが、そこから怒涛の餃子巡りが始まりました」

 

餃子に白飯、確かに最強の組み合わせだが、体重が増えそうだ。

 

「もちろん太りましたよ(笑)。それは筋肉も落ちてしまったからというのもありますけど、何よりそんなことを考えてストレスを抱えるよりも、好きなことして、ストレスフリーな生活を送りたいと思っているんで。自分にとっては食べることでハッピーになれるので、その分動けばいいやって考えていました」

 

そして今、彼女自身の好きなことと、サッカーの両輪がうまく回っている。

 

まず餃子一本だった彼女だが、「新しい店を行き尽くしてしまった」という。「でも中華が好きだから、餃子に限らず他も食べたいなと思って町中華に踏み込みました。餃子屋さんだったら餃子と白米なんですけど、町中華なら、白米ではもったいないなと思って餃子にチャーハンを合わせています」と世界を広げている。

 

サッカーでも才能を広げている。2024-25シーズン、WEリーグ クラシエカップ グループステージ第1節大宮アルディージャVENTUS戦に先発すると、これまでカップ戦、リーグ戦の全試合に先発。3バックの左、途中からワイドへのポジションチェンジ、その逆もある。さらに、SOMPO WEリーグ第6節ノジマステラ神奈川相模原戦の6分には、土方麻椰のクロスに合わせて今季初ゴールを記録。もっとも本人によれば「走っていたら、たまたま足に当たった」とのことだが、諦めずにクロスに飛び込んだことが得点につながった。まさに獅子奮迅の活躍を見せている。

 

その松田に自信のあるプレーを聞くと「守備で裏に抜けたボールを『追いかける』こと」という。単に「スピード」でないところがミソだ。

 

「守備のときのスピードには自信があるんですけど、攻撃のときのスピードはあんまりないです。本当になぜなのか、自分でも聞きたいんですけど、焦ると速くなるタイプなんですかね。『ヤバい!』って思ったときが一番速いです(笑)」

 

今週末、ベレーザはクラシエカップの大事な一戦を迎える。グループステージ突破に向けて勝利が求められる試合だ。

 

「前節(AC長野に)引き分けて、チームを苦しめました。あと2試合勝たなければノックアウトステージに進めないと思っています。プレッシャーもある中で、勝ち切る強さを出さなければいけないと思います。昨季は勝てば突破できた試合で、もう本当に最悪な試合をしてしまったので。そういうゲームをしてしまった自分もすごく悔いが残っていて、情けないなって思っていたので、そういう試合はもう二度としたくない。大事な試合でも勝ち切れる強さを出していきたいです。そして、取れるタイトルは全て取りたいです」

 

松田紫野は「追いかける」人。

 

自らの幸せを「追求」し、餃子を「追究」。その先の町中華という新たな道に進んだ。サッカーでは相手を追いかけ、自らのプレーを「追究」。常に勝利を「追求」する。

 

そしてベレーザを新たなステージへと押し上げる。

(写真 近藤篤)

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