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Match Preview
2連勝で迎えた前節・ヴァンフォーレ甲府戦、是が非でも勝点3を奪いたかったが、先制を許し、惜しくも勝点1に終わった。内容的には、自分たちのやりたいサッカーができている時間が長かっただけに、「勝てる試合でした」と、谷口栄斗副主将も悔しさを露わにする。ただ、ここ最近チームが目指している、「ボールを保持しながら主導権を握って攻撃をする中で、ローテーションを入れたり、背後を狙う、サイドを変えるという部分ではやれていたと思っています」とも齋藤功佑。第33節ツエーゲン金沢戦以降はそうした戦い方が続けられているだけに、悲観することなくポジティブに今節を迎えられることも、また確かだ。
今節ホームに迎えるのは藤枝MYFC。前回の対戦時には5-0と大勝した相手だが、城福浩監督は「守備の意識は高くなっていていると思います。つなぐ思考に変わりはないが、リスクをおかしすぎないというところも、特に前々節、前節とここ2試合出ていると思いますし、中盤の守備の強度も明らかに上がっていると思います。守備的にやるのではなく、局面の強度は上げてきているなと感じます」と、その直近の印象を語る。
また、選手たちの多くの印象も「つなぐサッカーのイメージ」と一貫。その中で、齋藤功佑は「前回対戦よりも完成度は高まっていると思うので、やはり、僕らは守備が大事になるかなと思います」と展望を語る。チーム最大のストロングである守備を徹底し、ハイライン・ハイプレスからチャンスを作り出して、より豊富になりつつある想像力を生かした攻撃で積極的にゴールを目指していきたい。
守備面では、メンバー構成に注目したい。長く戦列を離れていた林尚輝が先週末に行われた練習試合で復帰。序盤戦はアンカーでも起用されていただけに、途中起用も含め、どのような人選、配置を指揮官がチョイスするのか、今後を見据えた上でも注目したい。
また、攻撃面では、第33節以降、前線の連係が非常に流動的で選手それぞれの個性が存分に発揮された攻撃の形が見られるようになった。齋藤も、「個性が発揮されているからこそ、今までやり続けてきたショートカウンターやリカバリーカバーが、より発揮しやすくなるという部分はあるので、シーズン通してレベルアップしているなと感じます」と、チームとしての成長を感じているという。ここにきて、それができるようになった要因を、齋藤は「しっかりとビルドアップして、中も外もある中でプレーを選択していく。そういう要求が増えているのもそうですし、スタッフも、今試合に出ている選手の特長を生かすには、そういうふうな戦い方にした方がいいと感じ取ってくれて、いろいろ考えてくれたと思います。そうやって、選手、スタッフが、勝つためのコミュニケーションを積極的に取り続けて、お互いの意図を理解してという積み重ねの成果だと思います」と分析する。城福監督が“アドリブ”という独自のワードで表現する、ゴール前での選手の創造力がもたらす、華麗な連係からのゴールをぜひとも見たいところだ。
「もう1つも落とせない」「内容以上に結果」と全選手が胸に刻み込んでいる上で、だからこそ、勝つために大事なこととして、あえて齋藤は口にする。「相手も引いてくることが増えてきている中で、そうした守備を崩すためには1つ1つのプレーの質や、出す足など細かい部分を極めていかないと、ゴールは取れないと思う。ボールを回して満足しないというのがすごく大事で、よりゴールに近づけるように。ゴールの可能性を高められるように、熟成度を高めていかないといけないと思っています」。
前節よりも成長できているか。勝利という結果はもちろん、チームの熟成度もまた、悲願達成のためには欠かせぬ必須事項としてこだわっていきたい。
(文・上岡真里江 スポーツライター/写真 松田杏子)
Player's Column
センセーショナルな東京ヴェルディデビュー戦だった。
7月21日にセレッソ大阪からの期限付き移籍が発表され、そのわずか2日後の23日ベガルタ仙台戦でいきなりスタメン起用。試合開始6分、稲見哲行の折り返しから齋藤功佑が放ったシュートが相手GKに阻まれたこぼれ球に詰め、早々に移籍後初ゴールを決めて見せた。さらに前半33分、42分、後半1分と、その後チームが挙げた3点の追加点を全てアシストし、実力を証明。監督・スタッフ、チームメイト、ファン・サポーターに“中原輝”の名を鮮烈に印象付けた。
だが、一方で、あまりにも「できすぎでした(中原)」。最初から想像を超える大活躍を見せただけに、周囲からの期待値が急上昇しすぎたことは明らかだった。それでも、自分はJ1チームから来た身だ。「求められている期待が大きいことは自覚していました」と、そのあまりに高くなってしまったハードルをも真摯に受け止めた。だからこそ、その後5試合で1勝2分2敗と、チームの成績が停滞し、自身のパフォーマンスもなかなか特長を発揮できなかったことに、「僕の責任でもある。もっとやらなければいけない」と、密かに責任を感じ、苦しんでいたのであった。
そんな中、救世主が現れた。8月16日、横浜FCから新たに加入してきた長谷川竜也だ。
かつて、川崎フロンターレで4度のJ1優勝を経験し、昨季は横浜FCでJ2ベストイレブンに選ばれた、経験も実績も抜群に豊富な長谷川の存在は、中原にとっても非常に大きかった。長谷川は、加入直後にもかかわらず、一切遠慮することなく選手だけを集めてミーティングを敢行した。その中で、「このチームに足りないのは“要求”すること」だと強く提言したという。それにより、以前よりも選手同士の会話が明らかに増え、時には互いに厳しい意見をぶつけ合う場面も見られるようになった。中原も、スタートこそ良かったが、その後、新しい環境で、新しいサッカーに即フィットしなければならない難しさを実感していた中で、長谷川と話し、サッカー観が合うことを確信し、やりやすさが増した。チームとしても、これまでは「自分がどうしたいのか」を伝えるだけで終わっていたコミュニケーションも、「そのためには相手にどうして欲しいのか」まで、一人一人がはっきりと伝える、もう一歩踏み込んだ対話ができるようになり、それぞれの特長を引き出しあえる関係性が築かれつつある。その結果が、ここ3試合の2勝1分、ゲーム内容の充実度として現れていると言える。
中原自身も、「ここ3試合ぐらいは、自分のやりたいことを周りもわかってくれましたし、連携面でもやりやすさが非常に上がってきたと感じています」と手応えを口にする。
今回、期限付き移籍先に東京Vを選んだのは、「ヴェルディが攻撃的かつ、今は特にサイドアタックを主にやっている中で、自分がそこに入った時に、僕の持ついろいろなアイデアで攻撃をうまく引っ張っていきつつ、自分の良さも引き出せるのかなと。チームの目指しているサッカーの中で、自分をうまくはめることができるという感じがした」からだ。実際、加わってみても、「イメージ通り、ボールは入ってきますし、僕のところではがしたりチャンスメイクすれば、ゴールに近いプレーができるかなと思っていた中で、最近は試合でもそれができていると実感しています」と、充実度は高い。特にサイドバックの宮原和也、右インサイドハーフの齋藤功佑と築く右サイドでの流動性のある連係は見事で、間違いなくチームの最大のストロングになっていると言っても過言ではない。
また、セットプレーキッカーとしての貢献度も非常に高い。移籍交渉の席でも、「今、ヴェルディには左利きのキッカーがいない」と乞われていただけに、その期待にもしっかりと応えられていると言えよう。
東京Vに来て2ヶ月が経ち、中原は今、あらためて思う。
「J3、J2、J1と、僕もそれなりに下のカテゴリーからステップアップしてきた身で、J1で一年半戦ってきました。その中で、この夏からJ2というカテゴリーでやることになって、自分の中でプレーする時の余裕が生まれているなというのは感じられています。それは、強度という部分ではJ1は非常に高いものがあって、特にサイドバックには一人で守れてしまう選手もいて、うまく距離間を取ったり、間合いの詰め方が上手な選手もいました。そういう選手との対戦を経験しているからこそ、今、自分が余裕を持てていて、時間をうまく使うことであったり、相手のプレッシャーの受け方などに対して、焦りが全くないんです。余裕があることによって、プレーの選択の幅が広がったというのは感じますね」。
加入後、前節までの9試合全てでスタメン出場できていることも大きな充実感となっているが、実は、中原の中で最近一番嬉しかったことが、第34節レノファ山口戦でのホームでのラインダンスだった。チームがなかなかホームゲームで勝てず、ラインダンスはアウェイでしかできていなかった。その中で、仙台戦、ツエーゲン金沢戦はいずれもヒーローインタビューのため、また、ブラウブリッツ秋田戦はケガで先にチームを離れたため、ラインダンスに加わることができなかった。ずっと、「早くみんなと一緒にやりたい」と思っていた中、ようやく前回のホームゲームで念願が叶った。
「最初、やり方がわからないので、周りをキョロキョロしながらだったのですが(笑)でも、すごく一体感が生まれて、めちゃくちゃよかった。久しぶりのホームゲームでの勝利で、ファン・サポーターの方たちもずっと待っていたんだと思うので、なおさら盛り上がりを感じました。あの光景を、より多くしていきたいですし、昇格を決めて、さらにみんなで大きく喜びあえたらなと思いました」。
残り7試合となった。シーズン途中、期限付きでの加入となったが、逆に言えば、だからこそ、ヴェルディでの成功、結果に、並々なる思いをもって挑んでいるのである。
「僕自身、ヴェルディが昇格するため、させるために来ています。だからこそ、チームの結果が出なければ僕の責任にもなると思っていますし、それを成し遂げるためにゴール、アシストももちろん、最終的には昇格できているか、できていないかが僕の評価になると思っています。もちろんプレッシャーは常にあります。それをうまくエネルギーに変えて、自分の持てる力を発揮したいと思っています」。
そして、共に戦う“戦友”であるファン・サポーターにも、もっともっとヴェルディの一員としての自分のプレーを楽しんで欲しいと願う。
「もちろんゴールやアシストというわかりやすい部分もですが、うまく相手を引き付けるプレーだったり、ちょっと時間を使って味方の動きを待つようなプレーというのを僕自身は得意としているので、そういう部分をぜひ見てほしいなと思います」。
J1昇格争いへ、もう勝点1も落とせない戦いが続く。その中で人生を変えるべく新たな挑戦を選び、成し遂げるべく奮闘する中原の結果への強いこだわりに、大いに期待したい。
(文・上岡真里江 スポーツライター/写真 近藤 篤)