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Match Preview
残り10試合となり、順位争いが佳境に入る中、東京ヴェルディはアウェイ・ツエーゲン金沢戦で勝点3を得て4位に踏みとどまった。自動昇格圏内の2位・ジュビロ磐田と勝点2差。今後も一戦も負けられない戦いが続く中で、エースとして期待を背負って7月から新たに加入した染野唯月、中原輝が揃ってゴールを決めた上、クリーンシートで終えられたことはチームにとって非常に大きかった。
「自動昇格のためには、連勝が絶対条件」だと選手の誰もが口にする今節。
4月12日第9節ブラウブリッツ秋田戦から遠ざかっている5ヶ月ぶりの勝利は、ある意味、自動昇格へ最大の試練といっても過言ではないだろう。
これまでは、明確な表明をしていなかった城福監督も、「ホームでこれだけ勝てていないということは、そこに対して打破していかなといけないものが我々にはあるということ。それは、オン・ザ・ピッチで言えば、多くのチームが我々をリスペクトして、まず下がる。そのペースに自分たちが合わせた入りをしてしまうというところがあったと思う」と分析。
だからこそ、6月からレノファ山口の指揮を取るフアン・エスナイデル監督の代名詞とも言える“ハイライン、ハイプレス”を、この試合でもどこまで貫いてくるのか?あらゆるケースを想定し、この一戦での絶対勝利を誓う。
その中で、対策として挙げたのは中盤選手の技術力だ。
「テクニックのある選手をどれだけ警戒しても、フリーでやらせれば絶対にテクニックはある。それを出させないために、いかに間合いを詰められる守備ができるか。イコール、全体としてコンパクトにできるかは自分たちがやってきたことなので、そこはしっかりと出して、我々の攻撃の良さを出して、山口の守備の時間を増やせば自分たちのペースにできると思う」と展望を語った。
「ホームで勝てていないですが、とにかく攻めのサッカーをすることが絶対に大事」だと森田晃樹キャプテン。「負けないように、と思ってしまうと、どうしてもセーフティーなプレーを選択してしまうと思うので、とにかく全員が『負けないように』ではなく、『勝つために』だけを意識して戦うようにもっていきたい」。
残り9試合。城福監督は、森田主将のプレーでチームを引っ張ってきたここまで姿勢を大きく評価した上で、さらなる成長のためにと、求める。
「本当に必要なところで、どのようにチーム鼓舞できるか。必ず今後そのようなシーンが訪れずと思うので、どのような振る舞いを見せるのか、期待したい」と。
そして、指揮官はさらに副主将たちへも言及した。「谷口栄斗、マテウスにも、それぞれのリーダーシップがある。それを残りの9試合でぜひ見たい」。
今度こそ、味の素スタジアムで勝利のラインダンスを!!!
(文・上岡真里江 スポーツライター/写真 松田杏子)
Player's Column
選んだ道は、思うほど平坦ではなかった。
2017年に神奈川大学からJ3ブラウブリッツ秋田に加入。2年目の2018年からレギュラーを掴み、2020年に主力としてJ3優勝、J2昇格にも大貢献すると、その後も昨季まで主軸として秋田の最終ラインを統率し続けてきた。そんな充実の環境を自ら手放した。
もちろんプロサッカー選手としてさらなる成長を求めたからだ。
明るく、ポジティブ思考で、人と話すのが好き。そんな自分は新天地でもすぐに馴染めると思っていた。しかし、初の“移籍”は、まず思わぬ自分自身と直面することとなった。
「最初はもう俺、ヤバいぐらいに猫をかぶってました(笑)。
正直、全員知らない人とかでも、自分は意外と大丈夫だと思っていたのですが、実際にその状況に入ったら、けっこう厳しくて… キャンプが終わる頃でも、まだ自分を出しきれていなかったですね。たぶん、慣れるのに3ヶ月ぐらいかかったと思います。
喋らなかったから、今になって、みんなから『最初は怖かった』と言われます。なんか、このチーム独特の“壁”みたいなものを感じてしまったところがあったんですよね、それ、マジで自分の改善点!直さなきゃですね。でも、だからこそ、最近入ってきた選手には、溶け込みやすくしたいなと思っています」。
意外と“人見知り”。そんな新たな自分に気付かされたこと。また、新加入選手の不安や新しいチームに馴染む難しさなどを実感できたことは、今後の千田海人のサッカー人生においてかけがえのない経験となった。
うまく自分を表現できなかったことも起因していたのだろう。サッカー面でもなかなか自分の特長をアピールすることができなかった。空中戦の強さ、コーチング力を最大の武器と挑んだが、足元の技術に長ける巧者が揃う東京ヴェルディというチームの中では、やはり、技術面での課題が見つかった。
さらに追い討ちをかけたのが怪我だった。
「思い通りにいかないポイントは怪我でした」と千田。
秋田時代にも怪我で苦しんだことがあるだけに、日頃のボディケアや怪我予防の意識は人一倍高い。それでも招いてしまった不可避な怪我だっただけに、心身ともにダメージは少なくなかった。
初メンバー入りが第8節清水エスパルス戦、初出場が第9節秋田戦までの時間を要し、さらに次の出場が第18節いわきFC戦と約1ヶ月以上もブランクがあった。千田の置かれていた状況がいかに厳しかったかを象徴している。
試合に絡めるようになってからも、決してポジションを奪い切れたとは言い難い。その中で、さらなる忘れ難い痛恨の出来事が待っていた。7月12日天皇杯・FC東京戦。ハーフタイム明けの後半から出場し、試合は1−1のドローとなり延長戦の末PK戦へと突入した。そして、千田は9番目のキッカーとして指名される。そこまでの8人、先攻のFC東京は9人、千田の前に蹴った17人全員が決めているという白熱の展開でのキックとなった。
「左に狙って蹴ると決めていました」
それを、相手GKに完全に阻まれた。
「GKが動くのが早くて、蹴った時に読まれている感じがちょっとありました。PKで言えば、少し前までは、GKを見ながら蹴っていた時もあったのですが、それをやめたんです。
なので今回、間接視野でGKがちょっと動いたのが見えたのですが、左に思い切り蹴るというのはもう決めていたので。そこがPKの難しさでもあると思います。
『運だ』という人もいますが、僕は技術も大いに関係あると思っているので。最終的には僕の技術不足だと思っています」。
クラブとして、12年ぶりの実現となった“東京ダービー”。
ファン・サポーターが醸し出す物々しい雰囲気で、加入1年目の千田にも、その“一戦”が決してただの1試合でないことは十分わかった。だからこそ、試合後は敗戦の幕引きをしてしまった責任を感じ、どん底まで落ち込んだ。
だが、そんな失意の中でも、現実から逃げることなく、その結果にまつわる光景をはっきりと自身の胸に刻みつけた。
「ヴェルディに入ってまだ半年でしたが、試合が終わった後、アカデミー出身の選手の中には、試合に出た、出ないに関係なく泣いている人もいましたし、ファン・サポーターの本当に悔しそうな姿を見て、これだけの想いを持った人たちとともに戦っている東京ヴェルディというクラブが、より一層大好きになりました。そうした一人一人の想いを見て、その日負けたことももちろん悔しかったですが、そこで負けてしまったことの申し訳なさ以上に、まずこのチームを今年J1に連れていくために、今、自分がやるべきことをやらなければならないと、今まで以上に思って切り替えました」。
それは、決して簡単な作業ではなかっただろう。だが、試合直後にもらった、誰よりもヴェルディへの想いと責任感を露わにしている梶川諒太からの「また頑張ろう」という連絡、さらには、翌日にはそれとは真逆の同選手からのPK失敗“イジリ”に大きく救われ、なんとか切り替えることができた。
「長くサッカーをやってきているなかで、『また頑張ろうと』思えるタイミングというのは思い返してみてもそんなに多くはなくて。何か大事な試合で負けてしまったり、手が届きそうなところで届かなかったり、挫折だったり、そういう時が『このまま終われない』と思える瞬間。その中で、今回もそう思う出来事でした。この想いを、J1昇格という形で、もうすぐに返したいという思いです」。
試練は、それを乗り越えられる人にしか訪れないという。千田は、この経験を必ずや乗り越え、糧とし、自身の成長、さらにはヴェルディの勝利へと還元していくに違いない。
ここまで33試合中9試合の出場にとどまっている千田。
だが、今回のチャレンジに後悔は微塵もない。
「今までは秋田でずっとコンスタントに試合に出させてもらって、試合で成長させてもらっていました。でも、ヴェルディに来て、試合で得られるものももちろんですが、ここでは練習で得られるものもすごく大きいので、日々の成長の幅をすごく感じるとができています。
この歳(28歳)になって、周りから見たら若手ではないでしょうが、自分としては若手のような気持ちで、毎日どんどん吸収できる環境が今、ここにあります。この環境を与えてくれているチームメイト、スタッフにものすごく感謝しています」
とはいえ、この状況に一切満足はしていない。
「結果を出す場所は試合の中でしかない。練習のスペシャリストではダメ。どれだけ成長しても試合で出さなければ意味がないので、『試合で成長を示す』ことにはこれからもこだわっていきます」。
充実した日々を送る千田だが、唯一、心を痛めていることがある。自身が試合に絡めるようになってから、ホームゲームで一度も勝てていないことだ。
「新しくこのクラブに来て、素晴らしいスタジアムで、あのすごく熱いたくさんのファン・サポーターの方たちの姿を見て、『伝統もあるし、素晴らしいクラブに来たな』ということを、一番最初に感じました。あの中で、チームを勝利に導けるプレーをしたいと心の底から思いました。
それなのに、なかなかホームで勝てない姿を見せてしまっていることが、本当に申し訳なくて。アウェイではできている、勝利を共に分かち合う雰囲気を、ホームのたくさんのファン・サポーターにもぜひ見せてあげたいですし、あの雰囲気を体験してもらいたいなと、毎試合思っています。残念ながら、僕はそういう悔しい姿ばかり見ているので、辛い。どれだけ早くみんなを喜ばせてあげられるか。それを思い続けて、もうずっとモヤモヤしています。他の選手も、間違いなく同じ想いだと思います。
やっぱりサッカーって、応援しているチームが勝って初めて、『また次も行こう!』とか、『めっちゃ楽しかった!』と心の底から思えるので、選手としては、勝たないとその先には何もないぐらいに思っています。本当に、ホームで勝ちたいというのが、俺の今の想いの全てです」。
そんな、チャレンジ1年目も残り9試合となった。現時点でチームは自動昇格権の2位ジュビロ磐田とは勝点2差の4位につけている。もう1試合も落とせない状況だ。秋田をJ3からJ2昇格へと導いた経験をもつ千田は、今後の昇格争いのためのポイントに、“雰囲気作り”を挙げ、その役割を自分も積極的にかっていきたいという。
「例えばミスをしたりして誰かがシュンとなってしまったりすると、周りを巻き込んでしまって、1人が不安だと3人が不安になって、5人不安になって…と、台風みたいにどんどんチーム全体を巻き込んでしまうものです。だからこそ、逆に、ポジティブな雰囲気を循環させていくように意識しています。
ピッチ上では、練習の時からとにかくいい声かけをして、試合で起こったミスも、試合中だけは『次!次!もうそのプレーは帰ってこないから』と、ポジティブにやっていければと思っています。
もちろん、甘いプレーに対しては厳しく言いますが、それ以上にチームの雰囲気をどんどん上げていくような声を出していきたいと思っています」。
いよいよ終盤戦。優勝、昇格を知る千田の経験値は、必ずやチームの支えとなるだろう。
(文・上岡真里江 スポーツライター/写真 近藤篤)