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Match Preview いわきFC戦
前回のホームゲーム(第15節町田戦)での惜敗を引きずることなく、前々節、前節とアウェイロードで連勝し、戻ってきた。勝ち点6の積み重ねももちろんだが、さらに大きな収穫だったのが、新たなヒーローが続々と誕生したことだ。前々節の栃木戦ではこの試合が今季2試合目の出場だった稲見哲行が、前節は6試合ぶりのスタメン復帰となった河村慶人がそれぞれ今季初ゴール。稲見はこれが記念すべきJリーグ初ゴールとなった。
チーム全体としては、この2人が加わったことで、ゴールを挙げた選手は14名にものぼる。城福浩監督は、特定のポジションに偏らず、「どのポジションからでも得点できることが理想」だと話しており、その意味でも価値があったと言えよう。
主力選手が続々と怪我で戦列を離れてしまっている中、今節はさらに綱島悠斗が累積警告のため出場停止と、特にDF面でより厳しい状況下にある。前々節の栃木戦では3バックも採用する柔軟性を見せたが、「今いるメンバーの特長を最大限生かすためには、何がベストなのか」を最優先とする指揮官がどのようなメンバー構成、布陣を選ぶのか。特にセンターバックの人選には非常に注目だ。
センターバックの人選が鍵を握るもう一つの要因として、相手のいわきFCの大きなストロングが2トップにあるからだ。昨季J3得点王の有田稜、谷村海那、近藤慶一ら180cmを超える長身かつ屈強なFWが顔を揃える。また、チーム全体の印象として「フィジカルが強くて、全員が最後まで粘り強く走ってくるイメージ」と深澤大輝が話す通り、前節のジュビロ磐田戦でも、コーナーキックからではあったが、後半45分に同点に追いつく粘り強さと勝負強さとを併せ持っている。
城福監督が日頃の練習を何よりも大切にしているように、いわきの練習環境を熟知するバスケス・バイロンはその日常的なフィジカル面の強化の積み重ねの脅威を力説する。「持っているパワーやフィジカル面の強さ、運動量はJ2でも上位だと思っています」。その屈強な相手に対し、東京Vは最大のストロングである“バトン”をつないで強度の落ちない戦いを続けられるか。90分間通したスタミナ&肉弾戦が見られそうだ。
その中で、ぜひとも期待してみたいのがルーキーの山田剛綺だ。直近4試合連続でスタメン出場が続いており、第14節長崎戦ではJ初ゴールも記録した。前節のレノファ山口戦の2ゴール目、結果としては深澤大輝がゴールを決めたが、森田晃樹の折り返しにニアでつぶれ役となった影の演出者が山田だった。それでも、深澤のゴールが決まった瞬間、地面を叩きつけ、悔しさを露わにした22歳FW。その「自分がゴールを決めるチャンスを逃した」という姿こそ生粋のストライーカーの証。貪欲にゴールを求め続ける成長株の躍動が楽しみだ。
「おそらく、人間、困った時に一番新しい発想が生まれると思う」と城福監督。難しい台所事情のなか、どのような発想が生まれるのか。そしてまた、その期待に選手がどう応えるのか。チームの可能性を広げていく観点からも、興味深い一戦となる。
(文・上岡真里江 /写真・東京ヴェルディ)
Player's Column
大きな、大きな過ちを犯した。5月13日、第15節FC町田ゼルビア戦。相手は首位を走っている上、青森山田高校時代の恩師・黒田剛監督が指揮を執っているチームとあり、バスケス・バイロンにとってはチーム的にも個人的にも、いつも以上に気合いの入る一戦だった。ところが、その昂った思いが、プレーや表情、立居振る舞いの激しさとして現れてしまっていたのだろう。前半で1枚目の警告を受けていたにもかかわらず、後半18分に“異議”で2枚目のイエローカードを提示されてしまったのだ。チームにとっても上位浮上のかかる非常に大事なゲームだっただけに、痛恨の退場処分だった。
これには、城福浩監督も「抗議でイエローをもらってしまうようなチームは勝てないと思います」「あの退場は本当にもったいなかったです。そして、彼は学ばなければいけません。我々が表現すべきはプレーだということを、今日の試合から学んでほしいです」と、試合後の会見できっぱりと苦言を呈し、猛省を促した。
当然、バスケス・バイロン本人も、自分がどれほどまでにチームに迷惑をかけたか、その責任の重さを真摯に受け止めた。サッカー人生で初めて受けたレッドカード。
「小学生の頃は、むしろ誰よりも“グリーンカード(フェアプレー、リスペクトのある行為)”をもらっていた」というだけに、その真逆を意味する色のカードをもらってしまった現実に、ショックはあまりに大きかった。
本来はポジティブな性格だが、さすがに数日は落ち込んでいたという。それでも、チームメイトたちが次の日の練習などで「おまえ喋りすぎ。レッドカード!」や、赤のビブスを着ていた際には「めっちゃレッドやん!」など、イジりながらも笑いながら言葉をかけてくれる心遣いに救われ、再び前を向くことができた。
「正直、退場するなんて初めてだったので、僕自身が一番信じられなかったです。しかも、あんな大事な試合で、ということがよけいに悔しくて。だからこそというか、しっかりと学びました。今後は絶対にああいう過ちはしません」。
そして、さっそく学んだ教訓を生かす機会が巡ってきた。今節の対戦相手いわきFCは、バスケス・バイロンが高校卒業後、3年間所属したクラブである。
「いわきでは、東北社会人一部リーグからJFL昇格、J3昇格を経験することができました。当時から、とても5部リーグとは思えないほどの日本トップクラスのトレーニング施設や医療サポート体制などが整っていて、『ここで鍛えたら世界に行けるな』と本気で思っていました。その充実した環境で筋トレと走りを徹底的に取り組んだことが、今の自分のフィジカルのDNAになっていることは間違いありません。
街もサポーターも温かくて、とてもお世話になったことも、2021年はあまり試合に出られず、ベンチ外が続いて悔しい思いをしたことも、今となってはすべてが本当にいい経験となりました。今でもずっと、いわきの試合結果は気にしてチェックし続けています」。
思い入れはひとしおだ。その、“特別”なチームとの対戦で昂る感情をいかにパフォーマンスにつなげるか。城福監督の言う「我々が表現すべきはプレーである」の学びをしっかりと証明したい。
今季ここまで戦ってきて、いま、バスケス・バイロンには強く感じていることがあるという。それは、“徹底”の二文字だ。
「城福さんのサッカーが、チーム全員にしっかりと浸透しているなと感じます。選手一人一人がきちんと理解した上で、やるべきことをやっている。一人一人がやることを徹底したら、チームってなかなか崩れないし、負けないですよね」。
そしてこれこそが、勝てるチームの条件であることも熟知している。
「今のヴェルディの徹底している感じというのが、(青森)山田で全国優勝した時とか、いわきでJFLやJ3に昇格した時に似ているんですよね。山田もいわきも、とにかくやるべきことが徹底していたんです」。
いま、東京V指揮官が徹底的に求めているのは、“強度と走力”だ。「インテンシティと走りが最低限のベースにあって、そこからサッカーの上手さや技術がある。サッカーが上手くて、そこから走るというのではなくて、まず最初に走れて、インテンシティがあった上で、そこからどうサッカーの上手さを見せられるか、というのが今年の城福さんのサッカーだなと、僕は思っています」。
人は時にミスを犯す。だが、その失敗があったからこそ学べることも決して少なくない。今回、人生初の退場という経験によって、「よりもっと『強くなろう』と、火がつきました。クロスやシュートの質をもっともっと高めて、チームを勝たせられる選手になりたいと、さらに思います」。
ヴェルディに来て2年目。チーム、ファン・サポーターへの想いは深まる一方だ。
「スタジアムに入った瞬間に広がる、ファン・サポーターみんなの声援と、ヴェルディの緑の色を見ると、本当に何度経験しても毎試合鳥肌が立ちます。僕にとっての“源”なんだなと、心の底から思います。最近、味スタ(味の素スタジアム)で勝てていないので、ぜひとも今節こそは久しぶりにファン・サポーターと一緒に戦って、勝って、みんなで喜びたいです。僕がヒーローになって、トラメガで歌います!!」
育ててくれた古巣への格別な想いと、前回のホームゲームでの汚名返上のために、最高のパフォーマンスを胸に誓う。
(文・上岡真里江 /写真・松田杏子)