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Special Column
6試合を終えて4勝1分1敗で2位。
シーズンの7分の1を終えた時点ではあるが、1試合平均1.83得点0.16失点という数字と、J1自動昇格圏の順位にいることの意味は大きいように映る。
しかし、城福浩監督は現在の立ち位置について「まったく興味がない」と断言している。
大切なのは、いまチームが何をピッチで示せているか。例えば3-0で終えた熊本戦後は、「何より、全員で戦って無失点で終わることができた」ことを評価していた。
バトンを渡す選手と、つなげる選手。
指揮官は先発選手と、途中出場選手についてそう表現する。スタートからピッチに出ていた選手は全力を出し尽くして、バトンを交代する選手に渡す。
「ベンチにいい選手がそろっているから、そこにつなげる感覚ですね」。
深澤大輝は教えてくれた。
現在のチームで注目すべきは、バトンをもってピッチに立つ選手全員が己の役割を自覚し、それを勝利のためのパフォーマンスとして表現できている点にある。
選手交代が行われたあとに、全体としての強度や勢いが上がるのだ。
自らの価値を自らで創る、個人事業主(=選手)の集合体であるプロサッカーチームにおいて、それができているクラブは少ない。
その要因の一つに、「日本で一番の練習をしたい」と城福監督が語る日々の取り組みがある。
「(28日の)8対8のゲーム形式の練習で、ある1チームが3、4分で4ゴールくらいを決めたんです。決められたほうについてはそこで踏ん張ろうとする気持ちが欲しかったですが、何より、リードしたほうがそこで緩めずに攻め続けていました。我々はこれだと。その意識があれば、相手にスキを与えないサッカーができる。 “練習からやり続ける”ことが出せていた、その場面について選手全体にもあらためて話をして共有しました」
どんな意識で臨むべきか、城福監督はこうして方向性を示している。
日々のトレーニングから全員が高い意識で臨む。練習で好アピールした選手が試合のメンバーに選ばれる。
それはチーム内の競争にもつながる。バトンを手にプレーする選手には責任感が生まれ、ひいては試合でもいい結果として表れる──。
この好循環を続けたい。
(文・田中直希 エルゴラッソ東京V担当/写真・近藤篤)
Match Preview 大宮アルディージャ戦
前節ロアッソ熊本に勝利し、3連勝、さらに4試合連続無失点となった東京ヴェルディ。第5節で藤枝MYFCに5−0の大勝を飾った次の試合だっただけに、3点を奪い、しっかりと無失点で勝利を飾れたことは、緩みを許さない城福浩監督の方針がしっかりとチームに浸透している証だと言える。
前線からの全員による高い強度の守備が一番のストロングになっているが、それが続けられている要因を林尚輝は次のように話す。
「守備に追われる時間が長い時もありますが、それをみんなが苦だと思っていなくて、“勝つためにする行動”だと全員が理解しているんだと思います。守備のところって、どうしても嫌う選手もいると思うのですが、いま、ヴェルディの選手はみんながそれを率先してやろうとしていますし、その活躍をみんなが褒めあったり、良い声かけができている。守備にまわっている時間が長くても、『俺ら、これで守れているから大丈夫』とポジティブにやれていることが、いま、ボールを持たれても崩れない1つの理由だと思います」。
とはいえ、「もちろん少しでも緩めば失点になると思いますし、前節もピンチがなかったかと言ったらそうじゃなかった。ピンチ自体をもう少し減らさなければいけない」とは梶川諒太。慢心なく、この試合も高い位置から、強度の高いプレッシャーをかけ、守備から流れを作っていく。
対戦相手の大宮アルディージャは今季ここまで3勝3敗だが、前節は無敗だった大分に3−0と快勝し、好ムードで今節を迎えている。
一番の注目選手は、やはり3試合連続ゴール中のアンジェロッティだろう。速さと足元の技術を兼ね備えており、得点力はもちろん、チャンスメイクにも長けている。
「外国籍選手が乗ってくると厄介。個の力で、何もない状況からでも点が生まれたりするので、まずはそこにボールを簡単に入れさせないことだったり、競りに行ってしっかりとセカンドボールを拾うこと、みんなが惜しみなくしっかりプレスバックすることが大事になると思います」と、梶川は相手が焦れる展開に持っていくことをポイントに挙げた。
また、相馬直樹監督の戦い方に関しては鹿島アントラーズ時代に指導を受けた林が熟知しており、爪を研いでいる。
「鹿島の時、自分たちがやっていて、相手にやられたら嫌だったことというのが結構あって。なので、逆にそれを自分たちがしたいなと思っています」。
29日の全体練習後にも他の選手とも情報を共有し、相馬サッカー対策のための練習に励む姿が見られた。かつての指揮官を苦しめることができるのか、こちらも注目だ。
交代枠が5つになったことで、全体的に90分間通して強度の高いサッカーが繰り広げられるようになってきた。城福監督もその点は非常に重視しており、選手たちに「最初から100%の力を出し切って欲しい」と常々要求している。
そして、それがいまのヴェルディの武器にもなっている。前節、移籍後初めてスタメンで出場した北島祐二も、前半から惜しみなく飛ばしたという。
「初めのホイッスルが鳴った時から100%でいって、体力を使い切るぐらいの動きをやって、また新しいフレッシュな選手が100%でやることで強度が落ちないというのがこのチームの戦い方なので、僕自身も初めから100%でやれました」。
前節は前半だけで交代となったが、全力を出し尽くして次の選手へとつなぐというタスクはしっかりと果たした。
「途中から出ても、スタメンから出ても、出られない選手の分も背負ってやらないと申し訳ない。そういうチームこそが、常に勝ち続けられるチームだと思っているので、これからも毎試合100%で挑んでいきます」と北島は誓う。
出場した選手それぞれがフルパワーで闘い、存分に出し切って仲間にバトンをつないでいく。そんなタフで熱い戦いを、必ずや選手たちはこの試合でも見せてくれるだろう。
(文・上岡真里江 スポーツライター/写真・松田杏子)
Player's Column
2023シーズン、山越康平は並々ならぬ思いでピッチに立っている。
2016年、明治大学から大宮アルディージャに加入しプロデビューして、今年で8年目のシーズンを迎えた。キャリア最多出場は2018年の25試合。「シーズンを通して30試合、40試合に出たことがない。完璧に“レギュラー”と言えたシーズンはないんです」。しっかりとその現実と向き合った。
そして、あらためて気付かされた。
「やっぱり足りないものがそこにはありました。毎年毎年レギュラーを取りたいと思ってやってきましたが、今までは口だけだったというか、気付かなかった部分があったなと。毎年毎年同じようなやられ方をしたり、同じようなミスをしたりの繰り返し。『何かを変えなければいけない』と感じて見つめ直すと、元を辿っていけば体の使い方が圧倒的な原因だと感じました」。
今オフは徹底的にその改善に着手した。
その成果は間違いなくパフォーマンスに現れていると実感している。開幕から2試合は出場機会はなかったが、3試合目のヴァンフォーレ甲府戦で先発出場のチャンスを得ると、無失点と結果を出し、その後前節まで先発フル出場が続いて、チームの4試合無敗、無失点、3連勝に大貢献している。
「オフの取り組みがあるからこそ、調子もいいですし、いま試合にも絡めているのかなと感じています」。
昨季東京Vへと活躍の場を移したものの、怪我も重なり、思い描いていたほど出場機会を得ることはできなかった。
「あの時の悔しい思いがあるからこそ今の成長があると思っていますし、これまでも、これからも、苦しい時こそ成長できるチャンスだと、ポジティブに前向きに捉えてやってきましたし、やっていきたい」。
そんな姿をチームメイトたちもしっかりと見てつめてきた。
「試合に出る、出ないにかかわらず常にしっかりとトレーニングをして、いつ出番が来てもいいように準備をしているのを見てきた。そのなかで、チャンスが出た時にきっちりと結果を残せるというのは本当にすごいことだと思う」と、平智広はじめ梶川諒太は心から賞賛する。
さらに、林尚輝は「コシくんが対人で負けているところを、僕は見たことがない。本当に頼もしい」と、同じセンターバックを本職としてきた選手としてその能力の高さを大いに讃える。
「今年はヴェルディの軸になるーー」の一心で積み重ねてきた努力をサッカーの神様も見ていたに違いない。第6節熊本戦(3月25日@味の下スタジアム)で決めた今季初ゴールは、『ホームゲームJ2通算500得点目』となるクラブにとってのメモリアルゴールとなった。
そして、心身とも充実して迎える今節の相手は、大宮アルディージャだ。昨季は2試合ともメンバーに入れなかったため、これが初めての古巣との対決となる。
「すごく楽しみ」と目を輝かせながらも、「良い状態のときこそ、気持ちを引き締めないといけない。隙を見せずにしっかりと良い準備をしていきたいなと思っています」と、勝利へ向けて表情を引き締める。
センターバックとして、前節で3試合連続ゴールを決めたFWアンジェロッティ封じも大きなタスクとなるが、「すごく脅威ですが、しっかり離さずタイトに、隙を見せないというところがまず第一になると思います。ただ、だからといってあんまりビビリすぎずに、今までやってきたラインの上げ下げだったり、ハイラインというのを続けていければなと思います。やるべきことをしっかりやるだけです」と、いたって冷静だ。
「ヴェルディのファン・サポーターのみなさんにはもちろん、大宮のファン・サポーターのみなさんにも、『こんなにも変わったのか』と思ってもらえるぐらいの成長した姿をピッチの上で見せたいなと思います」。
緑の戦闘服に身を包み、『無失点』という結果で待ちに待った古巣への恩返しを果たしてみせる。
(文・上岡真里江 スポーツライター/写真・松田杏子)