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2024.11.10 トップ

Player's Column #9 染野唯月

Player's Column

「ゴールを渇望する染野唯月が語った現在地とは―。」

いま、エースが苦しんでいる。

 

2024年、染野唯月は初めて東京ヴェルディで開幕を迎えた。2022年、2023年もヴェルディでプレーしているが、いずれもシーズン途中からの期限付き移籍という形。そのなかで16試合出場4ゴール、18試合出場6ゴールと、毎年結果を残し、さらに昨季はJ1昇格プレーオフ決勝でPKを決めヴェルディを16年ぶりのJ1復帰へ導いたヒーローとなった。今季も引き続き鹿島アントラーズからの期限付きではあるが、ある意味、染野が昇格させたと言っても過言ではない。そのチームのJ1でのチャレンジに、エースとして自分が不在となる選択肢はなかったはずだ。実際、開幕戦から不動のレギュラーを勝ち取ると、2トップを組んだ木村勇大と抜群の相性で第17節北海道コンサドーレ札幌戦までで6ゴールと着々と得点を積み重ね、存在感を発揮した。

 

潮目が変わったのは第15節FC町田ゼルビア戦だった。0−5という大敗をうけ、城福浩監督は翌16節のヴィッセル神戸戦から、それまでの4−4−2から、守備をより強固なものにするべく3−4−2−1へのシステム変更を敢行。その一番の影響を受けたのが染野だった。運動量も豊富であり、足元の技術も正確。守備力もあってボールもおさまる上、視野も広くて判断力も的確で、さらに抜群のシュート力と、すべての要素において能力が高いがために、最前線から一列下がったポジションでの役割を求められることとなった。そして、結果的に上記の第17節以来、前節(35節)まで約5ヶ月もの間ゴールから遠のいている。

 

常に、FWとして“得点”こそが自らの力を示す最大の結果であり、チームからも求められている貢献の形だと意識し続けてきた染野だけに、そのもどかしさたるや想像を絶する。さらに、期限付き移籍という契約の事情で出場できなかったレンタル元の鹿島戦(第28節)を境に、以後7試合中6試合がベンチスタートと苦境が続いているのが現状だ。

 

その心中はいかなるものか。

 

「チーム的には調子もいいですし、城福監督が言うように、チーム全員で戦っていくなかで目指しているもの、やりたいことがしっかりと形として見えているなと。それは、練習でできているからこそ、試合でもできているなと感じています。それを引き続き継続して、プラス、次の対戦相手に対してどういうサッカーをすればいいかというのを一週間の中でやって、それを試合で体現できれば、残り3試合も良い結果が見えてくると思います」

 

と、真っ先に口にしたのは“チーム”のことだった。そして、続ける。

 

「個人としては、良いも悪いもあまり言えません。というのも、自分がどれだけ良いプレーをしていても、チームとして結果が出なかったり、周りの人が『良くない』と思えばそれまでだと思うので。その上で、そこの(自分の起用法などの)判断は、監督がするところなのかなとも思います。ただ、僕の中では、今は決して調子が悪い方向に行っているわけではない。逆に、プラスに捉えてゲームに入れているなと感じています」

 

まったくもってネガティブではないのが実に印象的である。それと同時に、林尚輝の言葉が思い出された。

 

「ずっと自分が中心として試合に出てきただけに、今は本当に悔しい気持ちが強いと思います。それでも、彼が持っている能力はすごく高い。これまで近くで彼をずっと見てきた僕が、ソメ(染野)が『変わったな』と思うのは、そういう(苦境になった)時の立ち振る舞いです。当然、彼自身がいろいろな葛藤はありながらやっているのは感じていますが、鹿島時代に同じように試合に関われなかった状況の時のソメも見てきたなかで、ヴェルディに来て、特に今年は、普段の会話から『チームのためにやってるんだな』というのが伝わってくる会話がすごい増えたんですよ。それは本当に彼自身の成長で、この難しい状況を乗り越えたら、また一つさらに大きな選手になれるんじゃないかなと思います」

 

林が感じ取る、染野の“チームファースト”の思いは、そのプレーからも大いに伝わってくる。

 

点を取りに行くのはもちろんだが、途中交代で入った際は、まずは守備。時にはライン際でボールをキープし、時間を使う役割すら厭わずに果たしている。

 

「もちろん勝っている時、負けている時、引き分けている時など、試合に出る時の状況によってやるべきことは常に考えなければいけないのですが、どの状況でも『点を取りに行く』というのは、FWとして忘れてはいけないところ。そして、いま、何よりも大事なのが守備かなと。走るところだったり、スプリントの回数は求められている部分なので、特に最近は途中出場の立場であるからこそ、そこは本当に意識しています」

 

そんな献身的な姿を、チームメイトたちが評価しないはずがない。

森田晃樹が「チームとしてやらなければいけないことがまず大前提としてあるなかで、ゴールという結果を出さなければいけなくて、今、彼は苦しいと思う。でも、得点は取れていなくても、守備とか他のところですごくチームに貢献してくれているし、普段の練習でも全力で取り組んでいて、シュートの決定力の高さは相変わらずなので」と慮れば、千田海人も「スタメンを勝ち取るために、本当ならゴールを取ることに専念したいだろうけど、それでも途中から入ったら全力で守備をして、チームのために走ってくれる。それに、チームが勝っている状況でも、クローズのところで押し込まれる場面が少なくないのですが、そんな時も、前にボールが収まるソメがいてくれることで、単純に蹴り出すだけではなくて、キープしてくれるのはめちゃくちゃ大きい。チームの失点が減っているのは、間違いなくソメの存在も大きい」と、DF目線からも讃えてやまない。

 

そうした理解をしてくれるチームメイトたちの存在も大きいのだろう。染野のなかで、守備への思考が変わってきたという。

 

「今までは、守備は仕方なくやっていたっていう部分があったのですが、それを当たり前にしていくという考え方になったんですよね。それによって、守備が苦じゃなくなったというか、守備を当たり前にして、それプラスアルファで攻撃もやっていくということを、ヴェルディに来てからは意識するようになったかな」

 

あらためて自身のキャリアを振り返った時、最もつらかったのは2022年、ヴェルディに来る前の時期だったと明かす。

 

「最初の方は、ある程度試合に出させてもらっていたのですが、それが急激に減って。それがきっかけでヴェルディに来ることを考えたので、本当に、僕の中で一番悩んだ時期かな。あの時の鹿島での時間は、さすがにきつかったなー」

 

だが、その一方で、それがあったからこそ今があるとも、今はプラスに思える。

 

「移籍してきたのが良かったのかなと思いますね。そのチームで良くない時に、自分の立ち位置や環境を変化させるのもアリだなと思いました。メンタル的にもきつかったので、気持ち的なところも変えられたのも良かったなと思います」

 

ヴェルディに来て、結果を出していくごとに信頼を勝ち取り、気がつけば頼られる存在になっていた。必要とされる喜びを、染野は身に染みて感じたのである。

 

だからこそ、いま、スタメンに名を連ねられないことがもどかしくてたまらない。

 

「うまくいかない時は、試合の出場時間も限られてしまう。そういう時にこそ、練習でどれだけ監督の目に映るかは、やっぱり意識します。そのなかで、求められていることをしっかりとやれば、監督も自然と『こいつは使って大丈夫だな』と思えると思う。決して気を遣ってプレーするとかではないですが、自分のやるべきことをやって、信頼してもらえるようにアピールすることは大事だと思います」

 

そうして、地に足をつけて自分にベクトルが向けられているのも、守備での貢献度も高く評価されることで、ゴールという結果だけにとらわれることがなくなったからに違いない。そして、そんな染野にこそ、チームメイトたちは得点を取って欲しい、取らせてあげたいと願っている。

 

実は、今季染野が決めた6ゴールはすべて味の素スタジアムでのゴールなのである。本人も「そうなんですか?」と気づいていなかったが、それを知ると、「たしかに味スタはやりやすいですね。ピッチ感というか、試合をしていて、ゴールまでの景色というのが、僕にとってはすごく合っている気がします」と納得していた。

 

残り3試合のうち2試合が味スタでのゲームとなるだけに、大いに期待したいところだ。

 

まだまだ高みを目指すチームにおいて、エース染野の本領発揮こそ最高の起爆剤になるはずだ。

<深堀り!>

Q:9月14日の北海道コンサドーレ札幌戦(第30節)でJリーグ通算100試合達成、おめでとうございます!セレモニーでは、奥様と愛娘さんが花束贈呈をなさいましたが、お子さまを見つめる染野選手の表情が、普段とは全く違う、“パパ”の顔でしたね(笑)

A:

ありがとうございます。子供ができたことで、やっぱり「もっと頑張んなきゃな」と思いますね。とにかく本当に癒されますし、どんなに練習や試合がキツくて疲れていても、娘の顔を見たら忘れられますからね。

 

僕の夢は、娘から「パパ大好き」と言われるような、良いパパになること。そのためにも、僕は長くサッカーをやりたいですし、サッカーをやっていく上で、人間性とかも磨いていきたいなと思います。これからどんどん年齢が上がっていって、やがてベテランと言われる立場になるだろうと思うので、人間性も大事だということを忘れずにサッカーをしたい。その第一歩として、練習も含め、本当に全力で一日一日、一試合一試合に取り組みたいと思っています。

(文 上岡真里江・スポーツライター/写真 近藤篤)

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