NEWSニュース
NEWSニュース
「5646日ぶり」。テレビ、新聞、インターネットなどのメディアに何度も報じられた数字だ。5646日=15年5ヶ月16日ということで、当然ながらこれはヴェルディがJ2にいた15年が加味されている。つまりこれはクラブとしての数字であって、監督、選手、スタッフにとっては今季の開幕から勝利から遠ざかっていたことに気を揉んでいたはずだ。
城福浩監督は、試合後のインタビューで「生みの苦しみ」という言葉を使ってこれまでを表現していた。J1昇格1年目、厳しい戦いを覚悟しながら、これまでの4試合はすべて接戦。開幕戦となった横浜FM戦、7分に先制しながら終盤に逆転された試合から、勝負はすべて紙一重だった。回り回って、これが5646日という歴史の重みだったのかもしれない。
前節の試合は、序盤から湘南の勢いに押される形で、15分にスルーパスからルキアンにど真ん中を破られて失点。前節京都戦と同様、先制点を許してしまう展開になった。前半シュート0本で終わったように、攻撃も歯車が噛み合ったとは言えないが、ただ違ったことは2点目を許さなかったことだ。
「今このメンバーで歴史を作る」。試合前、そう送り出された選手たちは、このままでは終わらなかった。後半ゲームチェンジャーとして期待される選手が次々と投入されると、試合の流れを引き戻す。前半で負傷した森田晃樹に代わって後半スタートから登場した山見大登もそこに貢献した一人だった。左サイドでボールを受けると何度も仕掛けチャンスを演出。そして75分、山見のクロスをファーから谷口栄斗が頭で押し込んで同点。さらに86分、今度は山見が自らゴールに向かい右足で強烈なシュートを叩き込んで逆転に成功した。ついに忌まわしい記録に終止符を打ち、新しい歴史をスタートさせることになった。
初めてJ1で戦う選手が多いチームにあって、この1勝がもたらす自信は計り知れないだろう。そして、同時にさらに勝利への欲望が強くなっていることは間違いない。
柏は、今季ここまで2勝2分1敗で7位。昨季は序盤の4連敗などもあり初勝利まで7試合を要し、最終的にはJ2降格一歩手前の17位フィニッシュとなったが、今季は快調なスタートを切っている。
前節はC大阪戦だった。14分にゴール前での接触があり、VARの結果C大阪にPKを取られてしまう。これを19分、レオ セアラに決められ、序盤に先制点を献上してしまった。しかし、その1分後だった。右サイドで島村拓弥が細かいステップのドリブルで相手ディフェンスを撹乱しラストパス。マテウス サヴィオが決めて追いついた。試合はその後、両チームとも一進一退の攻防を繰り広げたが、スコアが動くことはなく勝点1を分け合う形になっている。
柏は、ここまで5試合で複数得点がないなど、これでもまだ本調子とは言えない。何より、山田楓喜とともにパリ五輪をかけたU23アジアカップ カタール2024のメンバーに選出されたFWの細谷真大にゴールがない。昨季14得点を挙げたストライカーを目覚めさせたくないところだ。
ヴェルディの持ち越された課題は明確。まずは前節に続いて、前半の戦い方だ。2試合連続で前半に先制点を許しており、失点だけを見れば3試合連続となる。「誰かにスイッチを入れてもらわないとスイッチが入らないようなチームになってしまったら、とてもじゃないけど戦えないと思うので、自分たちでしっかりとキックオフからスイッチを入れられるように」と指揮官が話すように、フルスロットルで試合に入りたい。そうすれば、2つ目の課題である無失点試合も見えてくるだろう。昨季42試合中23試合で完封したヴェルディらしい試合を見せたい。今季ホーム初勝利へ。最後までどちらに転ぶか分からない試合ではなく、安定した戦いで勝利を収める。そうした勝ち方にもこだわり、試合後にファン・サポーターと勝利のラインダンスを楽しみたい。
昨季、「チームのJ1昇格」と「自身の成長」を胸に期し東京ヴェルディへ加入した齋藤功佑は、どちらの目標も達成し、充実のシーズンを過ごした。待望のJ1の舞台で迎える今季もさらなる成長を目指して最大限の努力を続けている。
すでに横浜FC在籍時の2020年、2021年にJ1を経験しているだけに、齋藤は昇格が決まった直後から「苦しいシーズンになると思う。まずは『残留』がタスク」だと、その厳しさを口にしていた。だからこそ、開幕から5試合0勝3分2敗、勝点3という結果は、「ある程度想定通りと思える部分はあった」という。だが、一方で、チームとしてやるべきことは出せていながらも、“勝利”という最も欲しい結果が得られない状況に、「いつまでもこれが続いてしまうと、みんなの自信の部分が落ちてしまいかねない。それだけは絶対に避けなければ」と危機感を募らせてもいた。
その中で、「大きかった」というのが、第4節アルビレックス新潟との試合だ。
「あの試合を引き分けに持ち込めたのは、表面上には見えなくても、ものすごくプラスに向かったんじゃないかなと思っています。
あと一歩だけど勝てないみたいな状況で、ずっと踏ん張りながら、『次はいける』というメンタル状態が続いてる中で、あそこで負けて連敗してしまっていたら、どうしてもみんなが落ち込んでしまう。横浜FCにいた時もそうでしたが、連敗すると、やはりメンタル的にはネガティブになるし、それによって本来はそこまでネガティブに捉えなくていいものも、マイナスに捉えてしまったりとか、冷静な判断ができなくなってしまうことが、チームに悪影響を生んでしまうというのを経験しました。 そういうことをシーズン通してで考えると、本当に価値ある引き分けだった。さらにもう1回、ポジティブな状態で次に挑めたと思います」
そして、前節・湘南ベルマーレ戦での今季初勝利。“J1”という大きな壁を苦しみながらも乗り越え、チームは間違いなく前進を始めた。だからこそ「ここからが本当に大事」だと齋藤。「1つ勝てば変わる」「若いチームだから、勢いに乗れば一気に変わる」と自分たちが信じてきたことはもちろん、周囲からも同様に見られているだけに、開幕から苦しんできた中で培った経験を、ここからしっかりと結果に結びつけていけるかが重要だ。
齋藤自身も、「クラブ規模、ファン・サポーターの数、ピッチやスタジアムの良さ、選手、チーム、サッカーの質など、何においても日本で一番クオリティーの高いリーグなので、すごく楽しめています」と、J1で戦えることに喜びを感じていることは確かだ。ただ、今季はサイドハーフでの起用が主で、新たな課題にも直面しているのが現状だ。
「チームが求めているものは守備の強度の部分が非常に大きい。そこに関しては、去年と比べた時に、自分の中で成長できている感じがあるのですが、サイドハーフなので、わかりやすいのは、仕掛けられたりする能力が必要かなと。けれど僕は、基本的にはそういうタイプではないので、もしかしたらそれを求められてはいないのかもしれませんが、僕の中ではそれができた方が幅が広がると思っているので、練習から少しずつトライしています。どこかで自分が仕掛けることによって、時間を作ったりとか、前進したりとかができて、さらに良ければクロスまでいって、それがアシストにつながったりといった、最終的なゴールのところでの関わり方を増やしたいなと思っています。そういうチャンスが来た時に、そのプレーをしっかりと成功させる。それで、守備でも強度高くやるというのは、 全然突き詰めれられるところだと思っているので、課題に取り組む時間は長いですけど、それすらもポジティブに捉えてやれています」
向上心が高いからこそ、自らに求めるプレーの質、量、種類、また選手像も自ずと高まっていくのである。少しでも長くピッチに立ち続けるために、パーソナルトレーニングも続け、「無駄にパワーを使わないけど、しっかりとパワーが出てる状態を作り出す」フィジカルを作っている。
また、昨季から全体練習後の個別練習も絶対に欠かさない。稲見哲行、綱島悠斗はじめ、時には翁長聖、山見大登、深澤大輝など、ポジションが近かったり、やりたいことの似ている選手とともに共有し、日々内容をアップデートしながら質を高め合っているのである。
実は昨年末、梶川諒太(藤枝MYFC)、小池純輝(クリアソン新宿/JFL)、長谷川竜也(北海道コンサドーレ札幌)ら、チームのために惜しまず献身してくれてきた先輩選手たちがチームを離れることに、齋藤は不安を感じていた。というのは、齋藤がヴェルディというチームについて、「それぞれが個人事業主で、それぞれがライバルで、自分が試合に出て評価されなきゃいけないプロの世界で、その中でも自分を押し殺して、チームのために本当にやれたり、コミュニケーションを取って要求し合える関係性がある。で、ピッチでは厳しいことを要求し合っても、ピッチ外では仲良くコミュニケーションを取ったりできる。今年(2023年)のチームは、そういった部分に救われたなって思うし、その状況を作ったのは、ベテランの選手の人間力のおかげ」だと思っていたからだ。その要因となった面々がいなくなる心細さを抱えていたが、実際は、今季チームでも「バランスはそこまで崩れていない」と安堵している。
「いなくなってしまったからこそ、『自分がやらなきゃいけない』というマインドになるので、また新しい選手が自覚とか積極性など、別のもので補えているなと感じています。それに、竜也くんたちが大事にしてた本質の部分も、去年一緒にやったツナ(綱島)とかが継続してやることによって、周りにも良い影響を与えていってると思うし、新しく森下仁志コーチらが入ってきて、成長する部分にすごくフォーカスしてくれていて、強度など、監督が求めるものをしっかりとプレーできるようになっていると思います。
それに、新しく入ってきた選手が、自分の成長にはどん欲だけど、必要以上にネガティブな発信をしない選手が多いことも本当に大きい。特に試合に出られない選手は悔しさはあるだろうけど、ちゃんと自分と向き合ったりすることができていると感じています」
当然、齋藤も、そうした先輩たちから多くの好影響を受けてきただけに、「自分がやらなければ」の思いは人一倍強い。試合翌日に行われる、試合メンバー以外による練習試合も、必ずと言っていいほど試合終了まで見届け、いろいろな選手たちとコミュニケーションを図る齋藤の姿がある。
「勝つために、やった方が良いと思うことは全てやる」をモットーとしているからこそ、ヴェルディで過ごす時間が長くなればなるほど、自らが果たすべき役割、果たしたいと思う気持ちは大きくなっていく一方だ。
「シンプルに能力を高めたいという思いもありますが、自分がしっかりと成長し、能力を高めることによって、自分の意図や発言の説得力も変わってくると思うし、チームにとってプラスに与えられる影響も大きくなると思う。 自分だけ結果が出せていない状態が続いてしまうと、チームのためにやっていることも、そこまでプラスじゃなくなってきてしまう。そこの両立はすごく大事にしたいですね。常に成長し続ける。その上で、周りと成長していく。考え方だけではなく、プレー的にも自分が成長することで、周りも成長して、相乗効果を生んでいくという姿勢を示さなければいけないと思っています。今、カテゴリーが上がって、相手チームのレベルも上がっているからこそ、そこの『示す』というところが出づらくなっている感じはしています。でも、ブラすことはないと思っていますし、やり続けることが結局は一番の近道だと思うので、去年の経験も経て、そこが今年はものすごく大事だなと思っています。もちろん、自信はあります」
チームの中で本当にそうした存在になっていけるのか。自分自身への挑戦でもあるのである。
2021年にはJ2降格も経験している齋藤の存在、経験値は、今後さらにチームにとって重要となるに違いない。
「残留のためには、積み上げが大事になっていくと思っています。積み上げるためには、結果も大事だし、成長にベクトルを置くことも大事。それを追い求めながらチームとして崩れないことがすごく重要かなと思います。
良い時ばかりではないことは、すでにみんなが痛感していると思います。じゃあ悪い流れの時に何が大事かといえば、一個人の選手としては、モチベーションを変えないこと。プロの世界なので、もちろん勝ち負けに重きを置いてはいますが、ただ、その勝った負けたで感情の波があると、結局継続されていかない。でも、毎回勝つために全力を尽くすけど、常に成長にベクトルがあれば、どれだけ成長してもまだ成長の余地があるので、モチベーションがずっと一定で保てる部分があります。当然、試合に出る、出ないなどのモチベーションはありますが、そこのコントロールが、選手としてはまず重要かなとは思っています。
組織としては、コミュニケーションをとり続けること。別に、悪い時に慰め合おうというわけではなくて、要求することも大事。ただ、コミュニケーションを取らなくなることが一番良くないということをこれまで経験してきたので、そこだけは繰り返さないようにしたい。『勝つ』ということに懸けてるからこそ、結果がついてこないと沈むという現象が起きやすいんです。なので、それぞれが自分で自信をつけながら、しっかりと向き合えるかどうかが大事になると思います」
開幕から勝てない時期が続いたが、アウェイで見た、サポーターの『テトリス』の大合唱に、心の底から勇気づけられた。
「あの向き合って士気を高める応援が、ものすごく一体感もあって、パワーになりました。ホームでもアウェイでも、とにかくヴェルディのファン・サポーターは一体となって熱く応援してくれる。だからこそ、本当に勝ちたいんです。そして、勝利でみんなに喜んで欲しい」
いかなる時も、決して齋藤は逃げない。チームのため、己の成長のため、常に1つ1つの事象と向き合い、選手として、人間としての器を広げていく。
<深掘り!>
Q:もともと、あまりサッカー以外のことに興味がなかったという齋藤選手のプライベートを知って、去年、千田海人選手が、「功佑の人生に彩りを加えてあげたい」とおっしゃいました(笑)。何か、千田選手によって彩りが加わったことはありますか?
A:
悔しいことに、結構ありますよ(笑)。洋服とかファッションも気になるようになりましたし、キャンプも始めたし。食にも興味が出てきて、「美味しいものが食べたい」という欲がちょっと出てきました。
洋服は、チーム内に興味ある選手が多いので、「それどこの(ブランド)?」みたいに、みんなで情報を共有したりしていますね。特に、(谷口)栄斗、(森田)晃樹、(深澤)大輝とかが興味があるものに、俺も興味が出てきたって感じですかね。まぁでも、「俺が一番おしゃれなんだ」というスタンスは崩さないでやっています。というのは、おしゃれって正解がないと思うので。同じ服でも、誰が着るかによって見え方が変わるじゃないですか。前は、アイテム自体で可愛いのがあったら、とりあえずそれを買って着るみたいな感じだったのですが、最近は「自分にはこういう系が合うんだ」みたいなことをちゃんと考えて着るようになった感じです。例えば、コートを着たら、基本的になんとなく大人っぽくなるじゃないですか。けど、俺が着た時に、それが最大限生かされるのか?みたいな。それよりも、違うものを着た方が、俺は映えるんじゃないかな。みたいに考えるようになりました。そうやって、より考えて選べるようになってくると、洋服もそうですし、何事も面白いじゃないですか。そのきっかけを作ってくれたのが海人くんです。
キャンプも、去年からデイキャンプを入れたら5回ぐらい海人くんに連れていってもらっています。あとは、だいたいテツ(稲見哲行)が一緒ですね。去年は、加藤蓮(現横浜F・マリノス)、佐川洸介(現ザスパクサツ群馬)、楠大樹(現テゲバジャーロ宮崎)とかも一緒に行ったりしました。今年は少し前に栄斗とも行きましたよ。キャンプって、ロケーションの良さや、あまり携帯とかメディアを見ないとか、何かに没頭する良さみたいなのを感じられるので好きです。みんなと話す時間もいいですよね。
こんなふうに、リフレッシュ方法が増えると、サッカーにも良い影響があると思うし。そういう意味でも、海人くんには影響を与えてもらってめちゃくちゃ感謝しています。
(文 上岡真里江・スポーツライター/写真 近藤篤)