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Match Preview モンテディオ山形戦
第8節清水エスパルス戦に敗れ連勝が4でストップしたものの、第9節ブラウブリッツ秋田戦で勝利し、再び連勝街道を走りたかったが、前節のジェフ千葉戦でも黒星を喫してしまった。
内容的にも、「相手の戦い方に乗ってしまった」と森田晃樹が表現したように、前半29分に先制した千葉がより強固に固めてきた守備の牙城を最後まで崩し切ることができず、終わってみればシュート数1本、コーナーキック2本という公式記録。「これでは勝てるはずがない」と、城福浩監督も当然の結果と受け止めた上で、次のように話した。
「(これまで求め続けてきた)“相手陣でフットボールをする”というところを、少しこちらの意図とは違った形で選手に伝わってしまっているなと感じて、試合の後には選手にも謝りました。本来、選手はゴールに向かいたいでしょうし、当たり前ですが点を取るために攻めている。それが、そういう状況にならなかった、させられなかったというのは、自分のアプローチが少し間違っていたのかなと。これまでの積み重ねの中で、自分の中で強調したいものと、実際に選手に伝わっていることとの間に歪みがあって、それが出たのがこの間の試合(千葉戦)だと思います」と、「自分の至らなさ」を敗因に挙げた。
もちろん、そこで伝えることを諦める監督ではない。生じた“誤差”をいかにして埋めてみせるのか。城福監督が強調したいことと、実際に選手に伝わっていること。その具体的な内容について聞くと、「試合で表現できた時には話させてもらいます。なぜなら、プロは結果が全て。いくら伝えたと言っても、実際に選手が実行し、結果で示せない限り、伝わったことにはならない」と指揮官。
絶えず強調してきた「相手陣でサッカーをする時間を長くする」とはどういうものなのか。
今季、ヴェルディが目指しているサッカーがどのようなものかを、あらためて今節、期待して見たい。
ただ、相手のモンテディオ山形も簡単には思い通りにさせてくれないだろう。ピータークラモフスキー前監督は、相手の戦い方を意識することなく、自分たちのサッカーを貫くことに主眼を置いていたが、第8節から就任した渡邉晋監督は、相手対策をしっかりと取り入れてきている。
おそらく、ヴェルディに対しても、前節の千葉戦を参考に対策を練ってくるに違いない。現在8連敗中と結果が出ていないだけに、「『もう絶対に負けられない』と、球際などにより気持ちを込めてやってくると思う」と、阪野豊史も強い警戒心を抱いている。
また、山形と聞いて森田晃樹、深澤大輝が揃って名前を挙げたのが「南秀仁選手」。それぞれジュニアユース時代から見ていて、その天才的プレーに憧れてきたヴェルディアカデミーの大先輩との対戦を心待ちにしている。「毎年対戦していますが、やっぱり上手いですし、わりと自分もプレースタイルは似ている感じはあるので、すごい見ちゃいますね」とは森田。深澤も、「味スタでやるのは南君にとっても多分特別だと思う。ヴェルディユースの選手とやるのは、僕にとってもすごく特別だし楽しみです」と目を輝かせる。南は怪我で2試合欠場したが、第9節から復帰している。いわゆる“ヴェルディっぽい”と表現される、独特のリズムとテンポ、そして遊び心を持った天才肌。卓越した足元の技術も兼ね備え、アカデミー時代から観客を惹きつけてきた。その南も、今年で30歳を迎える、山形の中心選手として君臨する姿を、ヴェルディのファン・サポーターも特別な思いで見つめることだろう。
山形は、前半での失点が多いだけに、ヴェルディとしては何としても早い時間帯に先制し、より強いメンタル的なダメージを与えて優勢にゲームを進めたいところだ。また、深澤はキーポイントとして「いかに僕らがいつも通り戦えるか」を挙げる。
「僕らには、“バトンを繋いでいく”といううやり方がある中で、僕らが連勝していた時は何をしていたかと言えば、裏を狙うとか、相手が嫌がることをしていましたし、そうすることによってボールがこぼれてきて、セカンドボールが拾えてという循環だったと思う。その原点に立ち返って、もう一度、相手の嫌なことをどれだけできるか。動き続けて、バトンを繋いでをチーム全員がしっかりと意識していけるかが鍵だと思います。守備では、局面局面で一人一人が負けないこと。全員が戦うことを意識していければ、絶対に勝てると思います」。
原点回帰。立ち返る場所がすでにあることは、大きな強みだろう。
試合後、城福監督から“誤差”の答えを聞けることを期待している。
(文・上岡真里江/写真・近藤篤)
Player's Column
失点数の少なさでリーグ2位(第10節終了時点)を誇る東京ヴェルディの鉄壁のディフェンス。その最終ラインで、プレーで、声でチームに安定感をもたらしているのが平智広だ。
2016年に東京Vに移籍加入したヴェルディユースっ子は、法政大学、町田ゼルビアで武器のヘディングに磨きをかけ、大きな戦力となって古巣へ凱旋。即戦力として主力の仲間入りを果たすと、2020年までレギュラー的存在として君臨し続けた。
その信用度から、2021年からキャプテンに任命されたが、序盤から怪我に苦しみ、以後、昨季が終了するまで度重なる故障に悩まされてきた。
「2021年の頭から怪我がちになってしまい、2022シーズンも、その怪我の状態を見ながら、痛みがでないように体のケアなどを中心にやっていました。コンディションが上がりきらないままトレーニングなどをしていた部分もあったので、難しかったですね。去年のシーズン中もずっと痛みを抱えていて…」
2021年は8試合、2022年は11試合の出場にとどまった。
ところが、状況は一変する。今オフに入り、痛みが消えたのだ。「理由は自分でもよくわからない」と、本人もただただ不思議がるが、おかげで、オフ期間中の自主トレーニングでは自分のやるべきこと、やりたいメニューを質、量ともしっかりとこなし、その上でキャンプインを迎えることができた。
心身とも万全の状態で挑んだキャンプでは、昨季から積み上げてきたベースに加えて、ハイラインを引き前線をコンパクトに、チーム全員で前からボールを奪い行く、今季城福浩監督が目指すサッカーを的確に理解し、その中で持ち味である対人の強さや統率力を存分に発揮。開幕スタメン出場を勝ち取ると、チームの4連勝、5試合連続無失点にも大貢献し、ここまで10試合連続でスタメンフル出場が続いている。
そんな平の姿に励まされているチームメイトは少なくない。加藤弘堅もその一人だ。「去年まで怪我や試合に出られなくて苦しんでいた選手が、今年再び試合にレギュラーとして出て、しっかりと結果を出しているというのは、すごく勇気をもらいます」。加藤は、一昨年、去年と平の苦悩を間近で見続けてきた。加藤自身も、もともと自分の置かれた境遇によって練習姿勢などを変えるタイプではないが、それでも、出場機会になかなか恵まれていない自らの現状も重ね合わせ、あらためて2歳年下のセンターバックのいかなる状況であろうと決して気持ちを切らさず鍛錬を続け、レギュラーに返り咲いた姿は大きな刺激となっているのだ。
同時に、平もまた、そうした仲間たちの想いをしっかりと受け止めている。
「僕も試合に出られない時期も長かったですが、このチームには、そういう状況の中で腐らずにやっている選手が多いです。特にベテランの選手は、出ていない中でも100%のトレーニングをやっているので、そこは心からリスペクトしています。どんなに出たくても出られない選手も多い中で、僕は今、幸いにも試合に絡めているので、ピッチに立つ以上は責任をもってプレーしなければいけないなと思っています」。
直近でも、長く苦楽を共に過ごしてきた梶川諒太が試合中に大怪我を負い、長期離脱を余儀なくされた。誰よりもヴェルディを想い、ヴェルディのJ1昇格のために死力を尽くしてピッチを走り回り、時には嫌われ役さえも買って出て厳しい言葉を仲間に投げつけてまでチームを鼓舞してきた梶川の離脱は、あまりに大きいと言わざるを得ない。その影響力は、当然平も感じている。特に前節、「試合中に修正するところだったり、チームとして何をするべきかという、これまでカジ君がよく話してくれていたところが、ピッチの中でしゃべれないまま90分間が終わってしまった。それで試合の流れを変えられなかったという部分もあったと思う」。
ただ、だからと言って悲観しているわけにはいかない。「カジ君がいない分、これからは一人一人が『何をすべきか』を考えて、みんなで声を掛け合って頑張っていきたいなと思います」。
状況によって、平も厳しいことを言う覚悟はある。
個人としても、まだまだ成長途中だ。今年は指揮官がハイライン、ハイプレスを掲げる中、練習の中でも「特に守備に関しては、ポジショニングの修正など細かい部分で指摘されることが多い」という。また、センタリング対応の際、人へのマークに対しての、自分を含めた周りの立ち位置の大事さなども、細かく伝えられるという。
「その細かいところの修正こそが、ピンチを未然に防ぐために非常に大切なことで、それがチームとしてできているからこそ、今季はピンチになることが少ないんだと思います。周りの人が気付かない部分でも、声かけ一つで味方を修正できる。あらためて声かけの重要さを学んでいます」。
DFとして、ゴール前での競り合いに勝つことや決定的ピンチを防ぐ技術はもちろんだが、ピンチそのものを回避できる能力が身につけられれば、守備力はさらに増すことになる。ここからさらに熟練度が深まっていく平の今後がより一層楽しみだ。
試合に出られない辛さを痛いほど思い知っているからこそ、背負える想いがある。この日のピッチに立てない最高の戦友たちの分も、全力で体を張ってゴール前を死守し、勝利に貢献してみせる。
(文・上岡真里江/写真・松田杏子)