『深澤大輝が抱き続ける"成長への欲望"』
Player's Column
深澤大輝には、大切にしている言葉がある。
『試合に出られないことは恥ずべきことではない。だが、いざピッチに立った時に自分のプレーができないことは恥ずべきことだ』
これは、プロ1年目に当時の監督だった永井秀樹氏がチーム全体に向けて伝えた言葉だ。この言葉に、どれほど深澤は支えられてきたことか。
1年目17試合、2年目32試合、3年目27試合と、プロ入りしてから3年間、多くの試合に出場し、レギュラー的存在として活躍し続けて今季4年目を迎えるが、過去3シーズン、実は数字ほど決して安泰な立場ではなかった。
「1年目はキャンプの初日に怪我をして、1ヶ月かかって復帰して、3日後にまた同じところを肉離れして。それでまた1ヶ月後に復帰したら、次は足首をやってしまて。で、試合にやっと出始めたと思ったら、また肉離れをしてという感じで、復帰しても出られない期間が続いてしまったんです。そんな中、たまたま、それまでずっと出ていた浜崎拓磨くんが期限付き移籍元の松本山雅戦だから出られないとなった第29節に僕が代わりに出て、そこでから出らるようになったという経験があったんです」
2年目も肉離れで途中離脱。去年、今年はキャンプでの紅白戦、練習試合、プレシーズンマッチなど開幕を前にした時点ではBチームが多く、2年連続で開幕戦に出場することができなかった。そんな時、悔しくてたまらない自分自身に常に言い聞かせてきたのが、この言葉だった。
では、いざピッチに立つチャンスが巡ってきた時に自分のプレーができるようにするためにはどうすればいいのか。その答えは、すぐ身近にいるヴェルディの先輩たちの姿を見ていれば自然と見えてきた。
「そういう出られない状況でも、ヴェルディには淡々と自分のことをこなしてる先輩方がいたので、自分がそんなことで腐っているようじゃ問題外だなと思いました。その先輩たちは、たとえBチーム(バックアップメンバー)だろうと、時には相手チームのフォーメーション想定で、本来の自分とは違うポジションでやれと言われたとしても、全力でやっていました。もちろん、プロサッカー選手として生きている中で、屈辱だったと思いますし、悔しい瞬間だったと思います。でも、そこからチャンスを掴める選手、掴めない選手というのを分かつのは、出られてない時でもいかに「出た時に自分の最大限を出せるように」と思って練習できるかがすごく大事だなと思います。自分も、去年のキャンプも、今年のキャンプも、その立場になってやってきた中で、それでも『絶対にチャンスは来るから、そこで掴めるように、心の準備も体の準備もしておこう』と、ずっと自分に言い聞かせていました。
正直、プロである以上、自分が試合に出られていなかったら、『チームが負ければいい』とか『自分と同じポジションで出てる選手に何かアクシデントがあればいい』とか、そう思っても当然と言えば当然です。だけど、僕はヴェルディというチームに来て今年で4年目ですが、そういう風に思ってる選手を見たことがありません。とはいえ、プロサッカー選手なので、内心では思っていてもあたり前。だとしても、それを一切言動にも出さないし、練習の姿勢やプレーで100%チームのためにやっている選手がばかりなので、そういう姿勢を見たら、全員が『もっともっとやろう』となりますし、その循環が今のヴェルディにはできていると思います」
その象徴が、今季でいえば平智広であり、昨季までであればチームを離れた小池純輝、梶川諒太、加藤弘堅、そして奈良輪雄太現コーチだった。そうした良き手本たちの背中を見て、チャンスが来た時に結果を出すための術を心得ていたからこそ、今年も第2節浦和レッズ戦からチャンスを掴み、今季も第2節からスタメン出場を続けることができている。
試合に出られることが決して当たり前ではないことを深澤は知っているからこそ、スキルアップへの欲望が非常に強い。
「浦和戦から出させてもらっていますが、自分のプレーにはまだ納得できていません。サイドバックである以上は、守備が第一ですが、プラスアルファとして、去年のように、ゴール前に入っていくという自分の特長がまだまだ出せていませんし、ビルドアップのところで言えば、正直、今までは左足を使わずにサッカーをしてこれました。でも、現代サッカーは右利きの左サイドバックが増えているなかで、左足が使えることの重要性をいま、ものすごく自分でも感じています」。
大学時代までは主にセンターバックだったため、「自分のプレーに満足していて、足りないところを補おうという練習ができていませんでした」。だが、プロに入り、昨年からは本格的に左サイドバックで出場するようになってからは、「左足を使えれば幅が広がると痛感していますし、スローインもまだまだ改善の余地があると思っています」と深澤。試合で感じた課題を、全体練習、その後の個別練習で重点的に取り組むことを非常に大事にしている。
左足を使えるようになる必要性も、スローインをしっかりとマイボールにする重要性も、「左サイドバックをやらなければ気がつけなかったこと」だという。その課題に対しては、どちらの経験値も非常に高い奈良輪雄太コーチに付き添ってもらい、日々磨きをかけている最中だ。
ただ、あくまでもそれは「プラスアルファ」だと深澤は力説する。「僕の求められているものは、あくまでも左足を使うとかそういうところではなく、まずはしっかりと守備ができることと、攻撃にどれだけ絡めるか。ディフェンダーとして守備は絶対で、さらに攻撃に出ていける回数、アップダウンできるところを見せていければと思っています」。
J1に昇格し、深澤には心から楽しみにしていたことがある。1つはアカデミー時代の同級生たちとの対戦だ。渡辺皓太(横浜F・マリノス)、大久保智明(浦和レッズ)とピッチ上でマッチアップできることを心待ちにしていたが、開幕戦は自分が試合に出られず、浦和戦は大久保が怪我をしていたため、どちらも今回は叶わなかった。「皓太とは一応ユニフォームは交換したのですが、次はちゃんとピッチに立って交換したいなと思います。トモ(大久保智明)とも、次はユニフォーム交換したいですね。
こんなふうに、(佐藤)久弥もそうですけど、ジュニアの頃からの同期と、こうやってJ1のピッチで戦えるっていうのは、このクラブの良さもあると思うし、いろんなチームにヴェルディのOBがすごくたくさんいる中で、そういう選手たちとJ1で戦えることは、本当にJ1に上がったからこそ味わえることだと思う。 だからこそ、ヴェルディはこれからもずっとJ1に居続けなければいけないと、改めて思っています」
そして、もう1つ心をたぎらせるのが『東京ダービー』である。アカデミー時代は、そこまで意識したことはなかったが、昨季天皇杯で対戦し、試合前の両サポーターによる喧騒、スタジアムの雰囲気、敗戦後の平智広、杉本竜士、西谷亮らの涙を目の当たりにし、「これが東京ダービーなんだ」と痛烈に思い知った。そうした一連の様子を見て、「次、対戦することがあれば絶対に勝ちたいなと思いましたし、勝たないといけないなとも思いました。今回J1に上がってきて、 ダービーができることをすごく楽しみにしている自分もいますし、勝たないと何も始まらないと思っています」
実は深澤は、東京都東久留米市出身で、エリア的にはFC東京のクラブハウスの方が近かった。だが、「FC東京にはジュニアチームがなかったので、父の勧めでジュニアのあるヴェルディのセレクションを受けたのがきっかけでした」。それこそが運命というものに違いない。
「僕は、アカデミー時代からランドに来るのが楽しみでした。ここで育ったからこそ、今のプレースタイルがあると思うし、今の自分の人格も築いてもらったと思っています。たぶん、学校にいる時間の次に、ここにいる時間の方が長かったと思う。そう考えると、スタッフや同期のみんな先輩も含めて、本当にヴェルディに育ててもらったと自分は思っています。だからこそ、恩返しをしたい。これからもJ1に居続けて、FC東京には常に勝たなきゃいけないなと思いますね。アカデミーのやつらと一緒に、なんとしても勝ちたいです!」
もちろん、ファン・サポーターも大切な大切な戦友だ。
「あらためて、去年からの応援は、とてつもなく僕らにとっては大きいサポートだったということは、まず伝えたいです。ホームでなかなか勝てない時もありましたが、僕らが挨拶行った時にはブーイングではなく、ヴェルディのチャントを歌ってくれたことで、『この人たちのためにも頑張らないといけないな』と、心の底から思いました。その後、結果がちょっとずつついてきて、秋以降、ファン・サポーターの数がすごく増えていることは感じましたし、それはチームのミーティングでも話題に出たぐらいでした。そして、勝つことでこんなにファン・サポーターが増えるんだなっていうことも実感しました。
今日の東京ダービーは、ファン・サポーターの方々も気合い入ってると思います、もちろん僕らも気合い入っています!良い舞台を用意してもらって心から感謝しているので、その想いを、僕らが良い戦いをして表現できればなと思っています。
みなさん、今日も一緒に戦ってください。そして、絶対勝ちましょう!
<深掘り!>
Q:自分の直したい癖とか、気になっている性格とかありますか?
A:
実は、最近自分の中で出てきた“節”が1つあるんです。それは、『自分、潔癖症じゃないかな?』説です。
今まではぜんぜん気が付かなかったのですが、一人暮らしをはじめて、めちゃくちゃ掃除機をかけちゃってる自分がいるんですよ。床が白いから埃が目立つというのもあるかもしれませんが、なんかゴミとかが落ちてるのがめちゃくちゃ気になっちゃって。やたらコロコロをかけたりしてる自分がいるんですよ。
ダイソンの良い掃除機を買ってしまって、LEDライトで埃が見えるんですよね。それゆえに、ちょっとでも埃があると絶対埃が見えちゃうんですよ。だからすぐに「あ、掃除機かけよう」ってなって、1日にマジで3回ぐらいかけちゃってるんですよね。この潔癖っぷりに、「これはマズイな」って思ってます。だって、もし彼女ができて、同棲なんかした場合に、髪の毛なんて落ちてようものなら、「おい!髪の毛!」とか言っちゃいそうだし(笑)これ、危ないですわ。
実際、友達が遊びに来た後とかは、めっちゃ掃除しちゃったりしています。そういう時にハッと気付いて、「俺、潔癖症なのかな」って思いました。
あと、前泊のホテルとかは、部屋に着いたらまず、全部荷物を出して、「シャンプーはここに」とか「化粧水はここ置いて」とかやっちゃいます。そういうこだわりみたいなのは強い方なのかもしれなです。
そうそう。この機会に1つ、みなさんにぜひとも弁明したいことがあります!この間、マテウスのインスタのストーリーに、なんか俺のロッカーが汚いみたいなストーリーをアップされたのですが、あれは違うんです!僕のルーティーンとして、ロッカーに行ったらまずシャワーを浴びるんですけど、僕、1回脱いだものはそのまま置いておくんですよ。で、シャワーから上がってきたら、きちんと畳むのですが、畳む前に写真を撮られて、それをアップされちゃって。なので、入る瞬間は適当なんですけど、出てきたらちゃんとロッカーを綺麗にしてるよっていうことだけは、皆さん、わかってください!
(文 上岡真里江・スポーツライター/写真 近藤篤)