『ヴェルディがJ1リーグで戦うことの価値』
Player's Column
ブラジルで生まれ育ったからなおさらなのかもしれない。マテウスは、母国にいる時から知っていた“東京ヴェルディ”が16年ぶりにJ1リーグで戦うことの価値を、誰よりも感じている。
「『ヴェルディ』というクラブは、日本以外では、特にブラジルですごく名が知れていて、もちろん僕もこっちに来る前から知っていました。それほどまでに知名度が高いのは、ヴェルディが長い歴史をもつクラブだからだと思います。
ヴェルディの歴史を遡ると、ものすごく栄華を極めていた時代もあれば、非常に厳しい時もありました。そして近年は、なかなかJ1に戻れず15年もがき苦しんできた中で、さらに経営難やクラブ消滅危機など様々なことで苦しんで、2023年、あのような(PKで劇的な昇格決定という)プレーオフ最終戦でJ1復帰を果たしました。こんな、決して平坦ではない紆余曲折に富んだ『歴史』はとても魅力的です。サッカーが好きで、でもまだ決まったチームを応援してない人は、そういう歴史を遡ってみたら、ヴェルディはものすごい魅力的なチーム、面白いチームだなと思っていただけると思います」
良くも悪くも、他クラブでは絶対に経験できない波乱万丈を乗り越えてきたからこそ伝えられるものが、ヴェルディにはある。その価値を理解しているからこそ、マテウスはヴェルディの一員として新たな歴史を刻めることに大きな誇りと喜びを感じているのである。
2020年、意を決して日本にやってきた。「チームをなんとかJ1に上げて、J1でプレーするということを目標にヴェルディに来ました。もちろん一年で達成できればよかったのですが、結果として5年かかりました。それでも、成し遂げることができたことが本当に嬉しい」
ようやく叶った初めてのJ1の舞台。「すごく楽しみ」が一番の感情だという。それと同時に、チームにとってもマテウス自身にとっても“チャンス”というワードを口にする。
「チームとしては、もともといたJ1という場所に戻って、そこでしっかりと『自分たちはできるんだ』ということを証明しなければいけないですし、そのチャンスを得られたということ。個人としても、自分はブラジル時代、7年間コリンチャンスというブラジル1部のチームに在籍していましたが、スタメンでの起用はなくて、常にサブのキーパーという立場でした。それが、日本に来て、スタメンでの出場機会が増えて、特に昨季は初めて全試合スタメン、フル出場という結果を残すことができました。今年、日本最高峰のJ1の舞台でもスタメンでしっかりと結果を出せるか。そこへチャレンジするチャンスを得られたと思っています」
プロサッカー選手として、昨季成し遂げた全試合スタメン、フル出場は大きな自信となったが、その裏にはしっかりとした要因があった。
過去のキャリアを振り返った時、怪我の多さが気になった。東京Vに加入し、出場機会は増えたものの、シーズンのどこかで体調不良や怪我を発症し、年間通してピッチに立つことができない。その反省から、2022年の途中から考え方やフィジカル、コンディションへの意識を大きく改革。「若い頃から指導者に言われていた、『しっかり寝なきゃいけない』『しっかり食事を摂らなきゃいけない』など、本当に些細な部分も、決しておろそかにしていたわけではないですが、正直、そこまで重要視していませんでした。それを、もう一度しっかりと見直して、休める時はしっかり休んだり、寝るという環境を作る。食事の管理。フィジカルの部分でも、個人的にパーソナルトレーナーと契約して、ブラジルから練習メニューを送ってもらってジムでトレーニングをしたり、ほぼ毎日やりとりして自分のフィジカルの維持をするなどの変化が、昨シーズンの全試合フル出場につながったんじゃないのかなと思います」
中でも大きかったのが食事の節制だという。「以前は、本当に食べたい時に好きなものを食べていました。でも、気をつけ始めてからは、好きなものを食べるのは、オフ前を含めて一週間に1、2回。それ以外は、自分自身はすごくルーティーンを大事にするタイプなので、栄養士さんにアドバイスをもらって一週間の中で食べるものをしっかり決めて、そのルーティンの中で生活するという食生活に改善した結果が昨年でした」
出場試合数が増えれば増えるほど、チームへの責任感も強まるものだ。全試合フル出場を果たした守護神として、さらには、昨年に続き託された副キャプテンとしても、昨季チームをベースにした今季チームへの思い入れは人一倍強い。
「新しい選手が十何人も入ってきた中で、チーム全体として技術面のクオリティをもっともっと高めていかなければいけません。それと同時に、城福浩監督が求めるサッカーの理解度を新しい選手に落とし込んでいかなければいけない中で、自分も含めて、もともといる選手がうまく手助けして、より早く馴染めるようなコミュニケーションをとる責任が、自分たちにもあると思う。
また、若い選手が多いので、既存の選手が献身的にやってる姿、チームのために働いてる姿を背中で見せなければいけないと思っています。シーズン通して、負けたり勝ったり、苦しい瞬間もあると思いますが、その中でしっかりリーダーシップをとって、チームを引っ張っていけたらと思っています」
今季は、まだあまり時間がなくてできていないというが、昨季もマテウスはGKメンバーだけではなく、いろいろな選手を誘い、時には自宅にも招き、食事会やホームパーティーを開いてチーム内の友好な関係づくりを図ってきた。「新しく入ってきた選手も含め、これから試合を重ねてく中で、いい機会があればまたみんなでご飯行ったりして、もっと仲を深めていきたいね」
東京Vが「仲がいいチーム」と言われるのは、こうしたはたらきかけも大きな要因のひとつと言えよう。
いよいよ幕を開けるJ1での2024シーズン。
「昇格一年目ということもあって、間違いなくJ2とJ1の差を感じる年にはなるとは思います」と、楽観の言葉は一切ない。「でも、始まってみなければわからない」というのも本心だ。J1定着への鍵は、「去年同様、チーム全体のディフェンスだと思います」と守護神。J2ではファインセーブで何度もチームを救ってきたが、「個のシュート力、攻撃力も格段と上がるJ1では、さらにそういうシーンが増えるんじゃないかなと思っています」覚悟すると同時に、自信もある。
苦戦必至のシーズンを『J1残留』で終えるためには、ファン・サポーターの力が必要であるとマテウスは力説する。「ファン・サポーターには日頃から感謝しています。まず、J1で戦えるこの瞬間をファン・サポーターの方たちと分かちあえることを本当に嬉しく思います。僕自身、昨年のプレーオフ決勝の映像を何度も見直しました。その中であらためて感じたのが、あれだけの人が応援してくれたことの喜び、そして心強さでした。今年一年も、昨年同様、もっともっとファン・サポーターの方が増えてくれることを願っていますし、スタジアムがたくさんの人で埋まることを祈っています。J1で戦う今年一年も、みなさんの力が確実に必要です。どうか、今年一年も温かい、そして熱い応援をよろしくお願いします!!」
Jリーグ開幕以来、31年ぶりの横浜F・マリノスとの開幕カードから、ヴェルディの新時代がはじまる。
<深掘り!>
Q:「大事にしている」というルーティーンとは?
A:本当につまらないことですよ(笑)
だいたい、毎朝7時半から8時ぐらいの間に起きて、朝食を自分で家で作ります。それを食べて練習に来て、練習後、昼食はクラブハウスで毎日同じものを食べます。で、14時ぐらいに家に着いて、そこからは自分の趣味の時間ですね。大学のオンライン授業があったり、日本語を勉強したり、ギター弾いたり、ゲームしたり。その時間だけは特にルーティーンはなくて、その時の気分でやりたいものをやるという感じです。カフェに行くこともけっこうあります。
その後、夕食を作るのですが、それもまた、つまらないメニューばっかりで、鶏肉とサラダとご飯がお決まりです(笑) で、夕食後に読書を挟んだりして、23時から23時半に寝つければいいかなというのが、僕の一日の流れです。
ちなみに、ギターは先週買いました!もともとブラジルでは弾いていたのですが、日本に来てからは初めて買いました。機会があれば、皆さんにも披露できたらなと思います!
(文 上岡真里江・スポーツライター/写真 近藤篤)