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2023.10.21 トップ

Match Preview & Column #20

Special Column

『堅守のウラに、“GKチーム”の充実アリ』

38試合で28失点はリーグ最少。『21』という無失点試合数もリーグ最多を誇る。その守備を、今季チーム唯一となる全試合フル出場で力強く支えるのがマテウスだ。毎試合、必ずといっていいほど決定的なシュートを彼のビッグセーブで防ぎ、チームを救ってきた。

試合後、そのマテウスに「◯◯分のスーパーセーブについて」問うた際に、「日頃からいいトレーニングを積めているからなんだ」という答えが返ってくるようになった。東京Vを応援し続ける皆さんならば、20年に加入したマテウスが年々GKとしての能力を向上させ続けて、安定感を増してきたことはお気づきだろう。例えば攻撃時のフィードやパス出しは安心して見ていられるようになった。それは、普段の練習で鍛錬してきたからこそ、だ。

マテウスは日々のトレーニングの充実について、ことあるごとに「(長沢)祐弥、(佐藤)久弥、マサ(飯田雅浩)が常に100%で練習に取り組んでいる。彼らと一緒にモチベーション高く、刺激を受けながらできている」と理由を説明する。先述のとおり、ミックスゾーンで好セーブについて聞いても、いの一番に“仲間の存在”を口にするのだ。

その仲間の一人、直近の3試合でベンチに入っているのが加入3年目の長沢。彼はGKとしての総合値が高く、シュートストップやフィードに本人も自信をもつ。城福浩監督をはじめとする周囲は、9月に入って明らかに調子を上げてきたと評価し、だからこそベンチ入りに食い込んだ。さらに指揮官は「元々自分のペースで淡々とやる選手だけど、周りへの声掛けが増えた印象。心強い」と述べた。確かに、練習を見るとチームメートへのコーチングが増えたように映る。当人と言えば、その変化のきっかけを「これと言ってない」とクールに否定しながらも「マテ(マテウス)のいいパフォーマンスを見て『もっとやらないといけない』と感じている」と明かした。それに長沢は、「試合に出られないからといって、GKの中に誰も手を抜くように人はいない」とも付け加えた。

今季の序盤戦から長くベンチ入りしていた大卒加入1年目の飯田は、長沢に取って代わられた立場ではある。それにサッカー人生の中で、これほどまでに試合に出られない経験はなかったという。例えばマテウスが出場した天皇杯3回戦のFC東京戦でも試合に出るつもりで直前まで準備を続けていた。

「試合に出れば、やれる自信はある。マテのことはリスペクトしているが、自分にしかできないこともある」と己のプレーを信じる。それでも「本当に悔しい」という思いは胸の内に秘め、ピッチでは持ち前の明るさを前面に出し、前向きな雰囲気を醸成。元来のリーダーシップから力強いコーチングを飛ばして強固な守備組織を生み出す。出番がなくても、試合に敗れた際に涙を流して悔しがるような負けず嫌いでチーム思いの熱血漢だ。

佐藤も、他のGKにはない一日の長がある。両足でのフィード力は、間違いなくチームイチ。グラウンダーで鋭いパスを前方にとおしたかと思えば、サイドへ正確なフィードを送って攻撃を組み立てられる。ムササビのようなジャンプでシュートをセーブする身体能力も魅力だ。飯田と同様にアカデミー出身者で、「昇格に手の届くところにいる。こんなチャンスはなかなかなかった。このみんなで昇格したい。最後の1試合までチームにいい影響を与えたいし、常に試合の準備はしている」と熱い思いを述べた。佐藤は泥だらけになりながら、日々白井淳GKコーチが蹴るボールに食らいつく。その目にはいつも力がこもっている。

今季から就任したその白井コーチは、より実戦的なメニューを取り入れて4人のGKの能力を向上させてきた。白井コーチ自身、年下のGKにポジションを譲ったサブGKの立場だった期間も長く、全員の心情にも寄り添える。さらに強化部スタッフの榎本達也氏も時間が許す限り練習に参加し、充実の二人体制でトレーニングを実施中。両足で鋭いキックを蹴る岩打弦大通訳もそれに加わるのだから、J2では屈指の練習環境だと言えるだろう。

ピッチに立てるGKは一人だけ。しかも今季は飯田が先発した天皇杯3回戦を除いてマテウスのみがゴールマウスに君臨してきた。互いに高め合うGK4人の日常は伝わりにくい。けれど、この守備の充実には“GKチーム”の切磋琢磨が欠かせなかった。勝負の最終盤、リーグ戦は残り4試合。充実感にあふれるいまのGKチームの環境を見るにつけ、このままゴールにカギを掛け続ける堅牢は崩れないだろう。

(文・田中直希 エルゴラッソ東京V担当/写真・近藤篤)

Match Preview

『鍵は原点回帰、目の前の一戦に集中を』

前節の大分トリニータ戦から2週間空いた。その間、東京ヴェルディは水戸ホーリーホックとの練習試合を行い、大分戦で見せた4−4−2システムに加え、新たなものを試したり、長期離脱していた選手の実戦復帰など、「このタイミングでしか試せない(城福浩監督)」トライもでき、指揮官にとっては収穫の多い期間となったようだ。

そのトレーニングマッチを経た今週は、2トップの優位性を生かすための共通認識を深めるトレーニングなどを行い、より得点の確率を高めてきた。自動昇格を果たすためには、残り4試合全勝が必須条件だと考えれば、得点は必要不可欠となる。「ソメ(染野唯月)とは、去年から一緒にやっているので、いい関係でやれていると思います。ジェフ千葉はDFラインも高くラインを上げてくる印象なので、うまく背後を狙いながら、相手コートに押し込んで、より多くの時間自分たちのサッカーをやりたい」と、染野と2トップを組む河村慶人は自身の持ち味を存分に発揮すべく意気込む。

対戦相手となるジェフユナイテッド千葉は、現在8戦無敗と破竹の勢いで5位まで浮上して来た。城福監督も「今、J2の中で一番充実しているチームだと思っている」と最大のリスペクトを口にする。また、「インテンシティの高さが今の千葉の一番の強みだと思っています。かつ、セットプレーのキッカーがしっかりと狙ったところに蹴れて、デザインされた状態で人が入ってくるという、セットプレーの強さもありますし、カウンターの精度も上がっていると感じます。新しい選手も入って、個で点が取れる選手がいるとうイメージです」と、その印象を話した。

ただ、一方で、「この時期にきたら、お互いに、相手がどうこうというよりも、自分たちがどれだけ積み上げて来たサッカーをやれるかにフォーカスする方に力を注ぐと思う」とも。当然、警戒すべき選手やポイントへの対策は講ずるが、それ以上に重きを置くのは、あくまで「自分たち」だと指揮官。

また、齋藤功佑は、第10節で戦った前回対戦を振り返り、「僕は後半から入ったのですが、めちゃくちゃ守備を固められて、何の打開策もとれずに終わった記憶があります。J2の中で個の能力がある選手が多く、その選手がしっかりと守備をしてくる、硬いチームのイメージ。うちも、守備が強みなので、1点が勝敗を左右する試合になると思っています」と展望する。

ミスを極力減らし、貫いてきたハイライン、ハイプレスを敷いて相手コートで長い時間サッカーをすること。バトンを繋ぐ戦い方をいかにできるか。重要な一戦だからこそ、原点回帰が鍵を握りそうだ。

 「他力本願とはいえ、我々は自動昇格を諦めていません。最後の最後まで、可能性のある限り自動昇格を目指していますし、そのためには勝ち点3を積み上げるしかない。最終順位は、最終節の試合終了の笛が鳴った時に受け入れるものだと思っています」と城福監督。

泣いても笑っても残り4試合。15年越しの悲願達成へ向け、ファン・サポーター共々、まずは目の前の千葉戦での悔いなき戦いを、一人一人が胸に期す。

(文・上岡真里江 スポーツライター/写真 近藤 篤)

Player's Column

『染野唯月が“東京V”に抱く想いと決意』

「ただいま!」の挨拶は、あまりに衝撃的だった。

 

昨年、シーズン途中の7月に鹿島アントラーズから期限付き移籍で加入し、16試合出場4ゴールと自身キャリアハイの数字を残して東京ヴェルディの6連勝フィニッシュに大きく貢献した染野唯月。2023シーズンは古巣でのプレーを選んだが、縁あって再びシーズン途中での東京V移籍を決断した。

 

初戦は7月9日J225節FC町田ゼルビア戦だった。同4日に加入が発表されてからわずか5日後にもかかわらず先発起用された染野は、0-2のビハインドで迎えた後半28分、宮原和也の右サイドからのクロスに最高のタイミングで走り込み頭で突き刺した。さらに同38分、左サイド新井悠太のドリブルからの折り返しが相手DFに当たり、浮いたボールを見事に頭に当て、同点ゴールを決めたのである。そして、新しいチームメイトたちと抱き合うと、すぐにゴール裏へ向かって両腕を広げ、下から上へと動かしファン・サポーターを鼓舞してみせた。その姿には、「ただいま」の挨拶と同時に、「J1昇格のために戻って来た。これから共に闘おう!」との強いメッセージが込められていた。

 

首位相手に2位(当時)として絶対に負けられない一戦、ましてや試合会場はクラブにとっても特別な場所、聖地・国立競技場という大舞台でチームを敗戦から救った勝負強さと持ち運に、誰もが「それがスタンダード」だと、その後のゴール量産に大きな期待を抱いたことは確かだった。

 

だが、現実はそんなに甘くはない。「去年プレーしていたということもあって、やりやすさはあった」と、染野自身もスムーズに新天地に溶け込めた感覚はあったが、チームは生き物だ。城福浩監督はじめ、昨季一緒にプレーした選手は何人もいたものの、強度も質も昨季以上に高いサッカーを目指して戦って来た2023シーズンのヴェルディの中では、新たな選手との連係も含め、やはり相応のアジャストが必要だった。そして、町田戦後は7試合無得点という厳しい日々が続いた。その当時を、染野はこう振り返る。

 

「今思えば、最初に出た試合で2点を取ったことはできすぎだった部分はありました。そうとは思ってはいても、やはり、その後点を取れていなかった時期は、自分のプレーに対して悩んでいました。自分が今までやってきたこと、考えて来たことをそのままやればよかったのに、自分がどうやってゴール前に入っていくかとか、相手をどう動かしていくかとか、変に他のことをやろうとして、いろいろ考えすぎてしまっていました。それで悩んで、『これは違うのかな』と思ったりしていたのがよくなかったと思います。しかも、それを試合中に考えてしまったのが、よけいによくなかったですね」。

 

その苦悩は、周りの選手たちにも伝わっていた。特に、プライベートでも行動を共にすることの多い森田晃樹は、昨季とのチームの変化も踏まえ、なんとか染野が輝けるようにと、さまざまなアドバイスを送っていた。当時、森田は次のように話していた。

 

「ソメは何でもできてしまうので、まずは役割をはっきりしてあげることが大事なのかなと。去年は佐藤凌我くん(現アビスパ福岡)との2トップだったので、降りることと背後に抜けるという役割が、2人の関係性ではっきりしていた。でも、今のヴェルディは3トップの真ん中という形でやっているので、降りるのか、裏を抜けるのか、駆け引きが難しくなっていて、そこで彼はたぶん迷っているんだと思います。その迷いがなくなれば、良くなるのかなと思うので、僕は何試合かソメに、『今回は、いつもより裏を狙ってみな』とか、『今回は、落ちてやってみるというのを考えてみたらどう?』という提案をしてはいます。

 

ただ、ソメに限らず、前線の3人の選手をどう生かすかというのは、僕らうしろの選手たちの仕事なので。なるべくソメやそれぞれの選手が自分のプレーに集中して、何も考えずにやりやすくやれるように、僕もできればなと思っています」。

 

こうした周囲のサポートも大きかったに違いない。また、FWの染野が得点できないという状況は、当然チームにとっても影響がある。思うように勝ち点が積めない中で、選手たちも改善策を考えていた。そのタイミングで長谷川竜也が加入したことで、話し合いはより深いものになり、チーム全体として、ポジショニングやシステムにとらわれすぎず、流動的にボールを動かし、人も動いていくという形が見事にはまった。それが、染野にとってもやりやすさを生み、第33節ツエーゲン金沢戦からは、コンスタントに点を取れるようになった。同時に、チームも上り調子だ。

 

ここまで14試合すべてに先発出場し、5得点と、すでに昨季の成績を上回っている。成績を含め、自身が今回の移籍を決断した時に思い描いていた青図通りの状況にも映るが、染野はキッパリと否定した。「自分としては、3割上手くいったかなという思いははありますが、残り7割は、個人としてはもっと点を取れた試合もあったし、チャンスもあった。チームとして、僕が来た時は2位にいたのを、3位、一時は4位と落とした時期があったのは、『自分が来てから落としてしまったのかな』という考えもあります。そこは責任を持って、絶対にJ1に上げなければいけないのかなと思っています」。

 

決して口数が多いタイプではない。だが、その内には、並々ならぬ責任感と覚悟を秘めているのである。

 

FWとして、自分のゴールがチームの勝利に直結する喜びと同時に、いま、その先に『J1昇格』というクラブ15年来の悲願が託されている責任の重みもしっかりと受け止めている。だからこそ、誰よりも厳しく、自らに結果を課す。

 

「来たからには、求められていることは自分が点を取ってヴェルディをJ1に昇格させること。僕が今年なすべきことは、それしかないと思っています」

 

そんな染野を支えるのは、「体重管理に気を遣ってくれて、本当に助かっている」という今年入籍した愛妻と、時に厳しく、それでも変わらず声援を送り続けてくれるヴェルディのファン・サポーターの存在だという。

 

「自分が結果を出せていない時期でもついて来てくれて本当に嬉しい。もちろん、サポーターだから厳しい言葉も言うだろうし、俺も言われて当たり前だと思っています。それでも、ついて来てくれるのは、本当に自分にとって励みです。自分が戦っている時に、一緒に戦って声を出してくれるというのは、かけがえのない後押しになっています」。

 

また、ファン・サポーターへの感謝とともに、いま、こうして試合に出続けられている環境の尊さを感じずにはいられない。

 

「こうして試合に出ることで自分の存在価値を示すことができますし、自分は『何でもできる』ということが武器なので、それを試合を通してプレーで出し続けるタフさが必要だなと、あらためて感じています。鹿島の時には試合に出られない状況が続いていた中で、ヴェルディでは試合に出ながら成長できる。本当に自分にとってよかったと思っています。

 

結果が出せず、点が取れなかった時でも使い続けてくれる監督にも本当に感謝していますし、パスを出し続けてくれている仲間にも本当に感謝したい。その意味でも、このヴェルディで昇格したいですし、自分が出ている以上は結果を出して、何としても恩返しをしなければいけない。今、こうして試合に出させてもらっているのは、本当に周りの人たちのおかげです。今の状況に満足せずに、さらに上を目指していきたい」。

 

計り知れない感謝を胸に、残り4戦、ただひたすらチームをJ1昇格へ導くゴールを追い求めていく。

(文・上岡真里江 スポーツライター/写真 近藤 篤)