オフィシャルマッチデイプログラムWeb連動企画(8/11)内田達也
第15回 内田達也
『今の内田達也があるのは二つの出来事のおかげ』
文=上岡真里江(フリーライター)
“今の自分”に、本当の意味で胸を張って生きるのは、実はそんなに簡単なことではないだろう。ましてやプロのサッカー選手。「こんなはずじゃなかった」、「あの時ああしていれば……」。そうした妥協や後悔の一つや二つ、抱え込んでいるはずだ。
内田達也も例外ではない。出場機会に恵まれない、左膝靭帯損傷など、多くの困難に直面してきた。決してすべてが思いどおりのサッカー人生ではなかった。それでも27歳のMFは、今に至った自分自身を肯定できている。
「今の自分があるのは、あの時のおかげ」。そう確信しているポイントが二つある。その一つは「ガンバ大阪のアカデミーに入ったこと」だ。
小学生の頃から地元の少年サッカーチームに所属していたが、平日に週に1度の練習をして土日祝日に試合を行うという環境で、サッカーを楽しんでいた。しかし、友達がセレクションを受けることになり、付いて行くことになった。
「ホンマに偶然というか、周りに流されて行ったというほうが大きいと思います」
そして、見事合格した。そこから意識が変わっていった。「それまでは、プロを全然イメージできるところにはいなかったんです。でも、Jリーグの育成組織に入ったことで、毎週のようにJリーグの試合を見に行くようになって。『あの選手はジュニアユースからやで』、『ユース出身やで』と注目されているのを見聞きするうちに、自分の中ではっきりと『プロになりたい』と思うようになった」という。
アカデミーでの毎日は、楽しくて仕方がなかった。初めて学ぶ、本当の意味での“サッカー”。「1から10まで、すべてを教えてくれたのがガンバでした」。乾いたスポンジが水を吸うが如く、学んだ技術の一つひとつを貪欲に吸収し、着実に自分のスキルとして身につけていった。
「自分を作り上げていく中で、あそこにすべてがあった。中学、高校と『練習に行きたくない』と思った日は1日もない。それぐらい、毎日心からサッカーを楽しめていました」
2005年にクラブ史上初のリーグ優勝を成し遂げたJ1の育成組織の中で、急成長を遂げている超逸材が周囲の目に留まらないはずはない。U-14日本代表に選出されたのを機に、常に世代別代表に選ばれ、中心選手として活躍した。主にセンターバックとしてスキルを磨いてきたこともあり、読みの鋭さ、素早さ、カバーリングやインターセプト力、ビルドアップする際のフィードの良さなど、クレバーなプレースタイルから、G大阪関係者からは“次期・宮本恒靖”との呼び声も高かった。
大きな期待を背負ってトップチームへの昇格を果たした。「これは感覚的なところですが、ガンバのジュニアユースに入ってなければプロになれなかったと思っています。ホンマに行って良かった」。今なお、確信して止まない。
そして、もう一つが「ヴェルディに来たこと」だ。
2017年に自ら下した一大決心に、内田は胸を張る。クラブ史上初のスペイン人監督招聘に当たり、レギュラー争いがフラットになったチームでの新たなチャレンジを選んだ。ミゲル・アンヘル・ロティーナ監督が求めた「ワンボランチができてセンターバックもできる」人材に、見事に合致した。
とはいえ、加入直後から簡単にポジションをつかんだわけではなかった。チーム立ち上げ当初は3バックの右で起用されることも多く、ボランチに変更してからも、ファーストチョイスではなかった。しかし、同指揮官の緻密な戦術を理解し、ピッチ上で的確に具現化できるゲームコントロール力、インターセプト力、そしてサッカーに対する日々の姿勢で信頼を勝ち取っていくと、開幕からロティーナ・ヴェルディの心臓として重用されたのだった。
「初めてきちんと一年間戦い続けて、自分がプロとして『サッカーをしている』と感じられたのも、ヴェルディだからだと思っています。もしあの時、違うチームを選択していたり、ガンバに残っていたら、今の自分はないと思う」。出場機会はもちろん、自身初めてのスペイン人監督から学ぶことは多く、「私生活からサッカー面、一週間のルーティーンなど、世界のスタンダードを味わえたことは、本当にいい経験でした」。
今季はギャリー・ジョン・ホワイト監督体制に変わり、試合メンバーから外れることも増えていた。だが、たとえ苦境に立たされても、練習量、立ち居振る舞いを含め、1日たりとも後ろ向きな姿勢を見せることはなかった。そうした姿勢は、必ず誰かが見ており、不思議とまた新たなチャンスを手繰り寄せるものである。
7月17日、ホワイト体制が終わりを迎え、永井秀樹新監督が就任。新たなポジション争いが始まった中で、内田は今、猛アピール中だ。
「具体的に『こうしたい』というスタイルを持っている監督で、毎日本当に勉強させてもらえていますし、成長できているという手応えも感じられています。高い技術と、頭を常に使うことを求められていて、練習から本当に楽しい。攻撃も守備もすべてもっと上手くなりたいですし、そう思える向上心が続いている環境にいられているのもありがたい」
これまで歩んできたサッカー人生を、後悔なく“最善”だと誇れるのは、1日1日を大切にし、常に自分のできる最大限を発揮し続けてきているからに他ならない。それはつまり、自分自身を裏切らなかったということ。自分を裏切らない人間は、チームのことも絶対に裏切らない。内田達也は、まさにその象徴のような男だ。