オフィシャルマッチデイプログラムWeb連動企画(4/3)林陵平
第4回 林陵平
『とてつもない危機感との闘い』
文=上岡真里江(フリーライター)
「サッカーが好き」
それが、林陵平の礎だ。
自他ともに海外サッカーマニアで知られているが、元をたどれば、少年時代からすでにその片鱗を十分に漂わせていた。
「高校生の時、一人、すごく海外サッカーが好きな友達がいて。その友達と、ずっと“海外サッカー選手の名前しり取り”をしていました。これがなかなか途切れることがなくてね(笑)」
ジュニアからユースまでを、東京ヴェルディのアカデミーで育った。中学時代には、当時“銀河系”と称されたレアル・マドリード(スペイン)に魅せられ、たちまち海外サッカーにのめり込んでいった。そんな林にとって、将来目指す道は、プロサッカー選手以外に考えられなかった。
しかし、プロサッカー選手への最初の登竜門となる、ユースからのトップ昇格は果たせなかった。それでも、「大学の世界だったら、1年生からすぐにスタメンで試合に出られるだろう」と意気揚々と明治大学に進学した。
だが、入学直後から、己の考えの甘さを思い知らされることになった。大学リーグの公式戦に出場するAチームにすら、入れなかったのである。
「大学で活躍しなければ、プロにはなれない」
とてつもない危機感に苛まれた――。
だが、『ピンチはチャンス』とはよく言ったものである。
夏を過ぎた頃、状況が何一つ好転しないことから、「何かを変えないといけない」と本気で変革を決意。考えに考えた末、食事とトレーニング法の改善に思い至った。
特に徹底したのが食事面だった。
「1年の時から、栄養学などを独学で勉強して、食事の摂り方にも気を使うようになりました。そうすると筋トレなどのトレーニング法を勉強していたこともあり、徐々に、でもはっきりと体が変わってきたことを感じることができた。それがプレーにもいい影響を与えるようになったんです」
そして、大学2年の後期からはAチームでのレギュラーを勝ち取った。その後の活躍は目覚ましく、3年時には関東大学サッカーリーグで2位となる14得点を決め、チームを優勝に導くと、6月には横浜FCの強化指定選手にも登録された。
「自分で『何かを変えないといけない』と本気で考えた時に、食事や栄養という、サッカーとはあまり関係なく見られがちなことが、サッカー選手にとっては非常に大事な部分だということに気づき、意識することができた。それによって、当時の自分が置かれていた危機的状況を変えられたことが、今の自分につながる大事なターニングポイントになりましたね」
プロになった今でも、揚げ物や炭酸飲料は一切口にしない。野菜をしっかりと摂り、バランス良く食べる。その一方で、試合が近づくにつれて炭水化物の量を増やしていくカーボ・ローディングを実践し、それでも足りない栄養素はサプリメントで補う。食事と栄養には細心の注意を払っている。
水戸ホーリーホックでキャリア最多のシーズン14得点を記録した2017年には、プロテニス界の絶対王者ノバク・ジョコビッチ選手の肉体改造法で注目された『遅延型アレルギー』にも着目。該当食品の牛乳が反応したため、大好きなカフェラテを今は泣く泣く我慢している。
それもすべては「プロとして当たり前」だから。技術的なことだけではなく、サッカーにつながる日常生活の至るところにまで貪欲に興味を持ち、知識を増やす。その先にしか、最高のパフォーマンスを手に入れられないことは、世界最高峰の海外リーグで活躍するトッププレーヤーたちを学生の頃から追い掛け続けてきた林にとっては、もはや常識なのだ。
自らの手で運命を変えた大学時代の成功体験は、メンタルの強さも生んだ。夢を叶え、プロ選手になってからも、試合に出られないなど壁にぶつかることは何度もあった。だが、「そういう時こそ、絶対に腐った態度は見せないと決めている。試合に出られない悔しさを押し殺して、自分がやるべきことをしっかりと見つけて取り組み、結果を出す。常にそれが自分のポリシーです」。
落ち込む時も、「当然ある」と語る。だが、いつまでもそこに立ち止まってなどいない。
「徹底的に落ち込んだあとには、『また頑張ろう』と思える。大事なのは、そこからどうやって立ち上がるか」
これほどまでに常にポジティブでいられるのはやはり、「大好きなサッカーを仕事にできていると喜びを感じている」から。
「サッカー人口が多くなった中で、幼い頃に『プロサッカー選手になりたい』という夢を見て、実際にプロ選手になっている人は本当に一握りです。その中で、自分はそれができている。大好きなサッカーを今、仕事にできていることが喜びであり、自分の支えにもなっている。これからも、その感謝を絶対に忘れないでやり続けたいと思います」
プレーで示し、ゴールセレブレーションで魅せ、メディアで広める。
林の一挙手一投足には、サッカー愛が溢れている。