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いつの頃からだっただろうか。昨年から森田晃樹に話を聞いているなかで、チームのことについて話題が及ぶと、私感を述べたあとに必ずと言っていいほど「俺は、そういう雰囲気をチームとして感じてたから、たぶんみんなもそう思ってたんじゃないかな」との言葉が聞かれるようになった。普段は「ほとんど意識することはない」と言いつつも、そこにこそ、自然と身についたキャプテンとしての自覚と責任感が現れているように感じる。
いよいよラスト2試合を迎えた今季のここまでの振り返りでも、その言葉は聞かれた。
「チームとしても個人としても、想定以上の成績でした。
俺自身、J1に対してリスペクト以上のリスペクトがあったので、強度やスピード、判断力とかに対してもう少し苦労するかなと想像してはいたのですが、思った以上に自分の力を出せたなとは思っています。
チームとしても、良い意味でも悪い意味でも、“J1”ということに対して最初の方は必要以上のリスペクトがあって、『どうかな?』と思う部分はあったけど、数試合でみんな『やれる』という手応えは感じたと思いますよ。結果としては出てなかったですが、チームとしてのやり方、個人個人のレベルでも『思ってたよりやれるな』というのは感じたと思う。まぁ、俺だけかもしれないけど、雰囲気的に、たぶんみんなもそう感じてたんじゃないかなとは思っています」
思えば、ほとんどの選手が初めて経験するVAR(ビデオアシスタントレフェリー)の監視下のなかでの判定、各チームに存在する世界クラスの選手たちとの対戦など、“J1”への適応に、開幕戦から多少なりとも時間はかかった。だが、「全然ネガティブにならなかった。最初の頃は、勝利という結果が出なくても、本当にみんな『あ、J1ってこういう感じなんだ』って、どちらかというと学びみたいな意味合いでの試合が多かったと思いますし、『それじゃあ、もっとこうした方がいいな』と、前向きにチャレンジできていました」
第6節湘南ベルマーレ戦で初勝利を皮切りに、試合を重ねるごとに勝点を積み上げられるようになっていったが、転機が訪れたのが第15節FC町田ゼルビア戦(5月19日@町田GIONスタジアム)だった。今季最多の5失点を喫し完封負け。それを機に、より守備力を強固なものにすべく3バックへとシステムが変更された。
「あのまま4バックでやっていても良い結果になっていたかもしれないですし、変えたから今の成績になったのかもしれない。それはわからないですが、でも、確実にあの試合でチームとしての意識が変わったと思う。フォーメーションどうのこうのもありますが、それ以上に全員の試合に対する考えの甘さというか、悪い意味で、慣れてきた時だったので、それに気付かされた、ものすごく良い転換点だったかなと、僕は思っています。あの大敗を機に、監督・コーチも選手も、全員が『変わらなきゃいけない』と感じて、実際に変われたのは大きかった」
そしてここまで36試合を戦い、14勝13分9敗の6位。16年ぶりのJ1復帰元年としては上々と言えよう。
その、今季チームの健闘について、24歳のキャプテンは次のように分析する。
「シーズン中、急に前線3枚の顔ぶれがガラッと変わったり、他のポジションでも、ここまでレギュラーで出ていた選手がいきなりベンチ外になったりしたことが何度もあって、競争が本当に激しい。だからこそ、チーム全体としてのモチベーションが1年通して下がらなかったし、全員がチャンスを掴もうとして必死になって練習に挑んでいるからこそ、チーム全体として、試合に出ているメンバーだけではなくて、その後ろに控えている選手たちも含めて成長できている。だから、誰が出ても遜色のない試合ができているのかなと思います。実際、僕自身だって、ここまで続けて試合に使ってもらっていますが、残り2試合に出られるのかわからないですから。チーム全員が僕と同じ危機感を覚えていると思いますよ」
そして、その危機感と同時に、メンタル的な脱略者を出さない城福浩監督のマネジメント力の素晴らしさを強調する。
「とにかく要求が厳しい。そのなかで、チームをマネジメントしていくのって難しいと思うんですよね。レギュラーで使われていた選手が、いきなり試合に出られなくなったら、その選手が『もういいや』ってなってしまいがち。それが、チームにとって悪い雰囲気を持ち込んでしまうかもしれないですし、それが決して1人だとは限らない。一度に3人、4人とかでも、いきなりパッと変えたりするので、そのなかで1人も腐らないというか、『なんでだよ』みたいなマイナスな方向に持ってくのではなく、全員が『もっとやろう』というプラスの方に持っていけているのって、考え方的には当たり前かもしれないけど、実際にそうできるのって、すごく難しいし、素晴らしいことだと僕は思っています」
当然、選手も一人ひとりがプロだ。試合に出られなければフラストレーションもたまっていく。だが、昨季から、このチームにはそういう態度や雰囲気を感じさせる選手が一人もいない。その点に関しても、森田はしみじみと力説する。
「逆に、そういうマイナスな方に向かってたら、全員が戻す雰囲気があるんですよね。どの選手を見ても、例えば紅白戦とかで(試合メンバーではない)Bチームになって、相手チーム役となってそのやり方に徹する時もあるのですが、そういうなかでも、みんなそれぞれ自分が試合に出るためにアピールしたいと思うけど、その気持ちを抑えて、みんながチームのためにと思ってやってる。そういう日頃の積み重ねでできた雰囲気というのが、チーム全員をそうさせているという感じはします」
そうして作り上げてきたチームの信頼感こそが、城福ヴェルディの最大の魅力なのである。
アカデミー時代から、「ライバルは東京ディズニーランドやライブイベントなどのテーマパーク。それ以上に『観に行きたい』『面白い』と思われる試合を見せられるチームになれ」と言われて育ってきた。そして今季、実際に平均観客数が一気に増え、正直「驚いている」と目を丸くする。「どういう層の人が観に来始めてくれているんだろう?」
ただ、そうした新しいファン・サポーターの方々に向けても、森田は胸を張る。
「勝敗は相手もあることなので仕方ないけど、きっと、『闘ってない』って感じる、あんまり面白くない試合はやっていないと言えると思います。そういう試合を年間通して見せ続けられてきているというのは、本当にすごいことだと思います。
城福さんは、もともと“ムービング・フットボール”を掲げて、『人の心を動かせるサッカーをしたい』ということをおっしゃっていました。まさにそれが今できてるのかなとは思います。何かキテレツなことをして注目を集めてるわけじゃないじゃない。本当に愚直に自分たちのサッカーにまっすぐ向き合って、やり続けてきたことが、いま、こうして評価されて、お客さんの心を掴んでいるということだと思うんで、ものすごく誇らしいです。
僕たちには、特別なスター選手はいないですし、全員若い。周りのビッグクラブと比べたら、レベルも規模も全然だとは思いますが、それでもやれて、ここまでお客さんを増やせているというのは、選手全員が喜びを感じていると思いますし、僕自身、観客数1,000人とかの頃も知っているので、本当に嬉しいです。
それは、僕たちがやってきたことに対しての対価だとも思いますし、何よりもこのクラブのフロントスタッフの人が頑張ってやってくれたこと、ファン・サポーターの方々の力添えがあったと感謝しています。これからもっと増えてくれればいいなと思っています」
甘さをいっさい許さない指揮官による日々の練習からの積み重ねの中から、毎週選ばれてくる試合メンバーが責任感を背負って闘いに挑んでいるのが今のヴェルディだ。誰一人力を抜いたプレーなどできるはずがないのである。そして、そんな“闘う集団”に、観る者は感情を鷲掴みにされるのだ。
気がつけば、買い物に行けば「あ!森田晃樹だ!!」と、声をかけられるようになっていた。これもまた、J1効果だと実感している。
「他のみんなもそうだと思うけど、明らかに外に行って声をかけられることが多くなって、やっぱり言動や格好にはすごく気にするようにはなったかなとは思います。クラブやチーム、家族にも迷惑がかかるから、恥ずかしいことは本当にできないなと、あらためて感じますね」
もちろん、時にはそれが窮屈に感じることもあるという。だが、それ以上に「嬉しい」というのも本音だ。人に注目されることは、やはり喜ばしいことだ。
そして、ヴェルディが躍進し、知名度が高まれば高まるほど、アカデミーにとっても大きな好影響力を与えられることも、生え抜きの森田には痛いほど理解できている。
「J2にいた時は、『このチームでトップに上がって、どこか(J1クラブ)に行って、みたいな考えがありましたが、それがなくなって、『J1のヴェルディでやりたい』と思ってくれる子が、たぶん増えてるとは思うので、それはすごく大きいし、良いことかなと思います。変に、このチームを出ることが前提の選択肢みたいなものがなくなったというのは、実際にユースの子たちがどう思っているのかはわからないですが、そうであれば、僕からしたらすごく嬉しいことだし、自信を持って『J1チームの育成組織だ』と言えて、自信にもなるかなとは思います」
育成組織にも大きな希望を切り開いた森田晃樹。この先に見据える「日本代表と、海外でプレーしてみたい」との目標に目を輝かせる。そして、「あ、あと」と、もうひとつ「ヴェルディで優勝している自分の姿も見たい」も付け足した。
「今すぐは難しいかもしれないけど、そんな遠い目標じゃないと思うんだよね」と、ヴェルディが生んだジーニアス。
城福監督が常々口にしてきた「サプライズを起こす」はすでに達成できていると言えよう。その衝撃をさらに大きなものにするべく、残り2試合もチームとしても個人としても全身全霊をかけて闘うことを誓う。
<深堀り!>
Q:今年めでたく“パパ”になりましたね。おめでとうございます!あらためて、森田選手にとってお子さんの存在とは?
A:
ありがとうございます!
ありきたりになってしまいますが、俺にとっては“癒し”ですかね。とにかくめちゃくちゃ可愛いので、練習から帰ってきた時とか、どんなに嫌なことがあったり疲れたりしていても、全然気にならなくなります。
結婚してからもそうですが、子供ができて、自分のためというよりは、「人のために」と考えて、それを行動に移せるようになったかなと思います。人に対して思いやりを持てるようになったかな。今までは、どちらかというと、ちょっと自己中心的だったかなと思いますが、もちろん今もまだまだ全然だとは思いますけど、そのなかでも、奥さんが今どうかな? とか考えて行動できるようになったと思うし、子供ができたことで許容できるものが増えたと思います。それが良い意味での余裕に繋がってる感じがあります。そこが一番変わったかなと。
子育ても、奥さんと楽しみながら一緒にやれていると思います。うちは、基本的に気付いた人がやるか、もしどっちかがやっている家事があったら、「そっちはやっといて!」と言える関係であるので、 僕が家に帰ってからできることは、家事も子育てもやるようにしています。
男の子なので、子供が大きくなたら、友達みたいな関係になりたいですね。一緒に服を買いに行ったり、遊びに行ったり、いろいろ一緒にしたいですね。
(文 上岡真里江・スポーツライター/写真 近藤篤)
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