日本瓦斯株式会社
株式会社ミロク情報サービス
株式会社H&K
ATHLETA
ゼビオグループ
2024.07.13

J1で谷口栄斗が"変えたい"ものとは―。

Player's Column

「J1谷口栄斗が"変えたい"ものとは―。」

谷口栄斗の言葉と行動には、いつもしっかりとした意思と向上心が詰まっている。

 

プロ2年目で叶えたアカデミー時代からの悲願『ヴェルディでのJ1昇格』。そして今年、目標だったJ1の舞台を前に、谷口は開幕前から「日本代表入りを意識してプレーしたい」と心躍らせていた。「相手のレベルが上がるので」と、チームとしても一人のディフェンダーとしてもハイレベルな相手との対戦を非常に楽しみに今シーズンに挑んでいる。

実際、得られている刺激は期待通りだという。当然、チームが勝てなければ悔しい。チームとしての課題や問題も毎試合見つかる。屈強な相手に個人として力を出しきれずもどかしさを感じたことは何度もあった。それでも「毎試合楽しい」と充実感を口にする。

 

「J1は日本最高峰のリーグ。ヨーロッパや南米の選手もいますし、日本のトップレベルの選手たちもいます。クオリティの高い選手や強力なFW、セットプレーで相手センターバックと対峙できて毎試合がすごく楽しいです。ここを目指してきてたんだなぁと、実感します」

 

その中で、実は今季、谷口は自身の中で“イメージ・チェンジ”を1つのテーマにしているという。

 

谷口といえば、東京ヴェルディのアカデミー時代からその両足キックの精度の高さは有名で、ディフェンスラインから入れる鋭い縦パス、ビルドアップ力には高い評価を得て来た。戦いの場がJ1に上がっても、その武器は十分通用している。その評価については自覚もしており、自身の大きな強みとしていることは言うまでもない。

ただ、だからこそ、ディフェンダー(DF)として最も基本中の基本である『守備力が高い』という印象が薄いと自己分析にも余念がない。

 

「たぶん、周りの印象的に、僕はフィードやビルドアップという印象があると思うので、その印象を変えたいんです。“守備者”としてもっと上のレベルにも行きたいので、今度はそこ(守備)を見てもらえる一年にしたいんです」

 

現代サッカーにおいて、センターバック(CB)がゲームコントロールなど、かつての中盤が担っていた役割を求められるようになっている。その意味では、谷口がすでに兼ね備えているビルドアップ力はまさに現代の理想のCBと言っても過言ではない。ゆえに、本人は守備力向上を自らに課す。

 

「自分はディフェンダーとして、高さの部分では小さい方だと思うので、空中戦や対人など、駆け引きで勝率を上げられるようにしたいと思っています。まずは失点しないというのが今のチームの最大のコンセプトでもありますし、個人としてもそこは年間通してしっかりと数字を出したいなと思っています」

 

ただ、日本代表選出。さらにその先に“海外”というもっと大きな目標を掲げている中で、昨季に続き怪我で約2ヶ月も離脱してしまったことは反省せざるを得ない。その将来を見据えた上で直面した大きな課題にも、アカデミー時代の同期・藤本寛也(ジル・ヴィセンテ/ ポルトガル1部)に紹介してもらい、栄養士と契約し、二週間ほど前から食事面の管理を行うようになった。昨季のパーソナル・トレーナーとの契約も含め、こうした必要な自己投資ができる考え方もまた、谷口の将来性の高さと言えよう。

 

こうして、“今”の気付きを一ミリも無駄にしないのは、やはり大学での4年間という時間があったからではないだろうか。

谷口は、人生のターニングポイントとして「ユースからトップに上がれなかったこと」と「大学での4年間を」の2つを挙げる。

 

「トップに上がれないとわかった時のショックは、今でも憶えています。当時は常に年代別代表にも入ってましたし、トップの練習にも参加していた中で、当時の監督だったミゲル・アンヘル・ロティーナがすごく買ってくれているとも聞いていたので、心のどこかで「上がれるだろう」という気持ちもありました。それが、練習前に面談をして、「上がれない」と言われてすごくショックで。あまりのショックで、その後に泣いたまま行って、その日の練習がすごく難しかったことは今でも忘れません」

 

だが、あらためて振り返ると、「大学に行ってよかったなと、すごく思います」とも明かす。

 

「高校生と大学生ってすごく差があって。スピードも違いますし、体格も違くて、まずはすそこに衝撃を受けました。あとは国士舘大学はすごくタフな大学で、それがすごく良かったかなと思いますね。やはり、クラブユースとは違って、4年間めちゃめちゃ厳しい練習だったり、寮の規則だったりの中で過ごしたことは、ものすごく良い経験になったと思います。たぶん、もしあのままユースからトップに上がれていたら、今の自分はいなかったと思いますね」

 

ただ、だからこそ、ユースからトップ昇格している選手へのリスペクト、そして大卒選手が認識すべき役割を力説する。

 

「今、サッカー界の中でも大卒選手の獲得が多くなっていますが、だからこそ、すごく大卒選手を見る目が厳しくなっていると感じます。即戦力で活躍しなければ、高卒プロとの差はすごく大きいかなと。というのも、4年間という時間は、短いようで長いです。その間で、良くも悪くも差はすごく生まれています。なので、大学で4年間すごく有意義な時間を過ごすことができれば、即戦力でプロで活躍できると思うし、逆にいえば、即戦力で活躍できることが大卒選手のいいところとだと思うんですよね。もちろん、プロに入ってから成長する選手もいると思うので、即戦力で活躍できなければ終わりというわけではないですが、やっぱりそこはすごく大事かなと思います。

一方で、その4年の間に、高卒でプロに行った選手でも、どんどんプロの世界で成長して、J1で活躍して、海外にいく選手も増えています。その意味でも、本当に4年は大きな差。僕も、大卒なので、もう25歳で若くないですからね。世界を考えると、その年齢の壁というのをすごく感じます。そう思うと、山本丈偉とかすごく羨ましいです。まだ18?ですよね。高校3年の年代でプロでやれているというのは本当にすごいと思いますし、素晴らしい逸材だと思うので、本当に頑張ってほしいというか、一緒に頑張りたいですよね。あいつには、『何にでもなれんだから、頑張れよ』とは言ってます。正直、本当に羨ましいです」

 

とはいえ、大卒一年目からしっかりとレギュラーに定着している谷口。16年来の盟友・森田晃樹も「子供の頃から、キックの精度へのこだわりは相当で、その練習を見てきているからこそ、彼がプロでも圧倒的にパスの質が高いことは当然だと思う」とまで言わしめるその活躍の要因を辿ると、ゆるぎなき努力の積み重ねが見えた。

 

「高校・大学の頃から、練習はものすごく大事にしています。自分の性格上、練習でできないことというか、準備不足で何かに不安を持ちながら試合に行くのが絶対にダメで。だからこそ、その日その日の練習でしっかりとやって、不安を完全に無くして試合をしたい。本当に、練習ではすべて出し切るっていうことをものすごく意識しています」

 

「自分の性格上」に興味がわき、尋ねた。「どんな性格なのですか?」

 

「気にしいなので」

 

意外だった。プレースタイルや日々の発言では、自信満々、謙虚だが強気な発言が、ある意味“感覚派”的な大物感を感じさせるのだが、本人は不安や後悔を完全に払拭したい超努力型。その人間味もまた、谷口の大きな魅力と言えよう。

 

「気にしいですが、別に普段からそんなに意識をしているわけではないですよ。でも、毎日練習で出しきることができていれば、試合で不安を感じずに挑めます。昔、学生の頃、それができずに体が動かなかったことがあって、コンディション面も含め、本当に練習は大事にしています」

 

その、「練習で出し切る」は、日常にも通じるものがあるようだ。“谷口栄斗”という人生をより豊かにすべく、今年に入って始めた日課がある。英会話だ。昨年末、深澤大輝、北島祐二(現アビスパ福岡)と行ったヨーロッパ旅行によって、その習得の必要性を掻き立てられた。

 

「去年、祐二とかとイングランドやスペインに旅行に行って、現地で一切に話せなかったんです。聞き取れはなんとなくしたのですが、答えられなくて… その時に、『やらなきゃな』と思えて。キャンプの時も同部屋の丈偉と部屋でずっと『英語、大事だから絶対にやろう!』と話してて。3ヶ月前ぐらいから、一応ちゃんと先生にお願いして、週一のミーティングと、毎日の報告をやっています。たぶん、3ヶ月前よりは英語が話せるようになったと思いますよ!

英語で話せるようになれば、チアゴ アウベスとかマテウスとかとも、もっともっとコミュニケーションが取れますし、人生の幅がより広がる。将来的には、海外でもプレーしたいと思っているので、そのためにも頑張っています」

 

ファッションセンスもチーム屈指で、参考にする選手も少なくない。もちろん、そこに対しての意識も高く、「サッカー選手である以上、見られているという意識は持たなければいけないと思っています。だからこそ、オシャレでいたい」と谷口。自らがそうであったように、プロサッカー選手に憧れる少年・少女の夢をプレー以上の要素でも与えられるようにとの想いがある。

 

最近では、「丈偉が真似してくるんですよ。あいつ、高校生のくせにマセてるんですよね」とイジりつつ、情報交換をすることも少なくないという。

 

山本はじめ松橋優安、白井亮丞など、アカデミー出身の後輩と何気なく一緒に過ごし、「少しでもチームに溶け込みやすいように」と、日常的に密かな気遣いを見せる副キャプテン。負けず嫌い度、ヤンチャ度から言って、おそらく今のチームで最も“ヴェルディらしい”選手と言っても過言ではないだろう。

 

「東京ヴェルディの選手として日本代表へ」の目標のもと、「守備、攻撃、両方で安定したプレーを出していきたい。そのためにも、怪我は絶対にしてはいけない」

 

本当の“信頼”とは、怪我をせずに何年もシーズン通して試合に出続けられる選手。ポテンシャルが高いからこそ、谷口にはぜひともそんな選手になってもらいたい。

<深堀り!>

Q:両足とも遜色ない質の高いキックを蹴ったり、ビルドアップに長けている谷口選手。子どもの頃はどんな練習をなさっていたのですか?

 

A:その質問、たまにInstagramのDMで、小・中学生のサッカー少年から来るんですよ。「逆足をどうやったら使えますか?」とか「どうやったらビルドアップがうまくなりますか?」とか。

 

そうですね。特別何かを練習したというわけではないですけど、小学校の時とかは、ヴェルディグランドは壁があるので、その壁にとにかくボールを蹴っていたという思い出はあります。

 

あとは、地元の公園で、横幅が広い滑り台があって、高さもまあまああって。その滑り台を使って、ずーーっと蹴っていましたね。滑り台に沿わせてボールを上に蹴るじゃないですか。そうすると、勢いが止まったところでボールが降りてくる。それを永遠と繰り返してましたね。当時は遊び半分でやっていましたけど、今思えば、それも必然的にボールを蹴る回数が増えていたんだと思いますし、それだけじゃなくていろいろ遊びながらもボールを蹴っていたので、結果、いっぱい練習をしていたんだと思います。

 

ビルドアップに関しては、周りがうまかったので、どういう感覚でやっていたとか、なんぜそうなったのかとは、すみません。わからないです(笑)

 

DMをいただいても、返すことはしていません。すみません。それでも、逆足のうまさとかビルドアップとかを小学生・中学生が見てくれて、分かってくれているということがめちゃくちゃ嬉しいです!ありがとうございます。

(文 上岡真里江・スポーツライター/写真 近藤篤)

これまでの「Player's Column」はこちら