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2019.04.13

オフィシャルマッチデイプログラムWeb連動企画(4/13)上福元直人

第5回 上福元直人

 

 

『”運”と”地道”な努力で掴んだチャンス 』

 

文=上岡真里江(フリーライター)

 

GKは、チームに1つしか出場枠のない、ある意味特殊とも言えるポジションだ。一度レギュラーをつかめば、よほどのことがない限り、簡単には外されないのが一般的である。逆に言えば、それだけ奪うことが難しいということでもある。チャンスが巡ってくるその日を、常に万全の準備を整え、じっくりと待つ。並々ならぬ忍耐力も求められるだろう。

 

上福元直人も、そうした下積み時代を乗り越えてきた一人だ。2012年に大分でプロ入りし、その後3シーズンもの間、一度たりとも出番は回ってこなかった。

 

だが、2015年、思わぬ形でチャンスが訪れる。当時のレギュラーGKが試合前の練習で負傷し、急遽、サブだった上福元がピッチに立つことになったのである。

 

「正直、運だったと思います」。だが、その一方で、「もし、そのタイミングでセカンド(GK)にいなければ、チャンスは巡ってこなかったと思います。GKは『地道』と言われますが、本当にその通りで。いつチャンスが来てもいいように、その時のために、1日1日モチベーションと集中を切らさないようにやってきました。それが、成果としてその試合で出せたと、胸を張って言えます」。

 

自らの手でたぐり寄せたチャンスであることも確信している。

 

結果として、その年、チームはJ3降格という悲劇に直面した。だが、上福元にとっては、運命を変える大きな出会いが待っていた。

 

 

新監督として、2016年に片野坂知宏氏(現大分トリニータ監督)が就任した。新指揮官の『トライする』を最大テーマに掲げるサッカーは、5年目GKの迷いを払拭し、大きな自信を与えてくれた。

 

「こういうプレーはダメ」「こうしなければならない」など、はっきりとした否定を示す指導者も少なくないが、大分監督は違った。

 

「もちろん監督の狙いはあって、『これ』というサッカーははっきりしていたのですが、その中で、選手の判断を尊重してくれました。そのトライをうまくチームに浸透させてくれる監督だったので、非常にやりがいがありましたし、プレーで怖がることがなくなり、自分の判断に自信が持てるようになりました」。

 

ミスをしたことを指摘されるのではなく、トライしたことを評価してもらえるため、自然と積極的なプレーが増えていく。当然、ミスも生じるが、その時は、「そのトライは間違っていない。じゃあ、それを成功させるためには、クォリティを高めることに重点を置かなければいけない」と説かれ、懸命に技術の向上に努めた。

 

そうした、“トライ&エラー”の繰り返しと、「エラーした時にどれだけ自分を奮い立たせられるかを試された」環境を与えられたことで、技術もメンタルも逞しく鍛えられたという。

 

さらに、今のプレースタイルが確立されたのもこの時期だった。上福元と言えば、GKからのビルドアップを最大のストロングとしているが、ここでのトレーニングが、足もとの技術を徹底的に磨いてくれた。

 

「それまで、キックには自信がありましたが、正直、足もとには自信を持っていませんでした。ボールを動かしてゲームを組み立てていくことも得意ではなかったですし、ボールが戻って来た後のプレーの質というのも、決して高くなかったと思います。それを、あの年から一気に求められるようになりました。『練習から、習慣づけることが大事だ』という方針だったので、練習の中でも、試合のためのトレーニングということを意識していて、フィールドプレーヤーと同じぐらいのレベルでボールを足で触るメニューも多かった。それによって、必然的に状況判断や判断スピード、足もとのクォリティも求められる。それができないとトレーニングにならないというメニューだったので、嫌でも磨かれていきました。あの時の経験が、僕にとっては本当に大きくて。あの時に自分の持っていたものを引き出してもらって、感謝しています」。

 

これまで養ってきた経験、身につけた武器は、今、“守護神”という重責を背負う中で、着々とブラッシュアップできているという自負がある。今後目指す理想のGK像は、「『この人が出て負けたなら仕方がない』と言われる存在」だ。

 

「シンプルに言うと、『勝たせられるGK』です。ゲームを読める選手、勝負どころでパフォーマンスを発揮できる選手、チームが得点を取るためのマネジメントができる選手、そして、それがどのチーム、どのサッカーでも発揮できる選手。自分はそこを求めてプレーしています。でも、まだまだ足りない」。

 

その理想に、どれだけ近づけるかが、今後のテーマだ。そして、大分で定位置をつかみながら、昨年東京Vに移籍してきたのも、その“トライ”の一環なのである。

 

「結果として、大分が昇格したけれど、昨年の移籍が失敗だったかと言えば、そんなことは1ミリも思っていない。最高の時間だったとしか思っていません」。

 

J1昇格が叶わなかったことも、「まだまだ伸び代があるということ」とポジティブにしか捉えてない。これからもスタイルは変わらない。努力を地道に一つひとつ積み上げて、選手として幅を広げていくだけだ。

 

①一度レギュラーをつかめば、シーズン中の入れ替わりの少ないポジションというのが一般的である。

②一度レギュラーをつかめば、試合ごとの入れ替わりの少ないポジションというのが一般的である。

③一度レギュラーをつかめば、ほかのポジションに比べて入れ替わりが少ないのが一般的である。