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2024.11.22 ベレーザ

Beleza Player's Column #6 土方麻椰

主人公

自分の人生において、自分は主人公である。それは当然わかっているのだけれど、小説なり映画なり漫画になって、その主人公が務まるかというと大半の人は「さすがになぁ…」と思うのではないだろうか。それでも、この人は生まれながらの主人公だなと思うような人はいる。

 

元来、プロフィール欄に載るアルファベットと言えば、基本的にはABO血液型の一択。本来の目的とは違う使い方がなされ、「A型の人は几帳面」のような性格分析のツールとして使われていた。最近ではそれに加えて、4文字のアルファベットが載ることも増えている。どうやら「MBTI」というもので、若い世代を中心に急速に市民権を得ているようだ。JFAのホームページにも、それはあった。

 

ENFJ

 

このアルファベットの羅列で「主人公タイプ」となるらしい。その性格の持ち主、それが土方麻椰だ。

 

もちろん主人公にも様々なタイプがいる。朝ドラの主人公から、特撮ヒーローものの主人公、恋愛映画の主人公だったり…。それこそ十人十色。その意味で、土方は何だろうか。いわゆる“スポ根漫画”の主人公なのかもしれない。

 

「サッカーにしか興味がないんです。先輩にも『サッカー馬鹿』ってイジられたりもします(笑)」

 

兄に影響されて始めたサッカーだった。

 

「昔から欲しいものは全部手に入れたいし、誰にも負けたくない。すべてが自分のものみたいな感じだったし、従兄弟2人とお兄ちゃんの4人でずっと遊んでたんですけど、そのときから自分が1番だ!って騒いでいました(笑)うるさくて、とにかく負けず嫌いでしたね」

 

そんな性格もあって、ぐんぐん上手くなった。チームに献身的な今のプレースタイルに通ずる、負けず嫌いのエピソードもある。

 

「幼稚園から小6までマラソン大会があって、ずっと1位だったんですよ。中学の3年間は1000m走が一番の長距離走だったんですけど、いつも1番のタイム。高校2年と3年で10kmのロードレース大会があったんですけど、そこでも1位だったんですよ。とにかく負けたくない。『やだやだ』なんて言いながらも、負けたくないから頑張っていました(笑)」

 

妥協することはあるのだろうか?

 

「特にサッカーと対人競技では負けたくないですね(笑)どんな遊びのミニゲームでも、遊びのスポーツでも、体育の授業とかでも諦めることはないです」

 

強い精神力を垣間見ることができる一方で、負けても悔しくないもの、最初から勝負をしないものの1つや2つはありそうだが…。それをどうしても知りたい。絞り出した答えは、

 

「うーん、なんですかね。裁縫とかですか(笑)細かいことは苦手。大雑把なんですよね。手先が不器用ってよく言われます」

 

手先が不器用と話す彼女だが意外にも特技はジャグリングだそう。お手玉を使って、3つまではできるようになったという。

 

「高く上げたりとか、一回転してキャッチしたり。サッカーで空間認知力が必要かなと思って極めてみました。3つでできるようになったらすぐに飽きてしまいましたけどね。空間認知には役に立っているのかな?それは結局よくわからないです(笑)」

 

同様に、卓球も得意だ。

 

「卓球は、お父さんと横の動きの素早さに良いんじゃないかって始めました(笑)」

 

興味を持ったことをやる。でも、それらはすべてサッカーのため。スポ根漫画の代表格「巨人の星」の「大リーグボール養成ギプス」のように、努力の仕方は独特だ。だが、そこが魅力的。それら11つがエピソードにもなる。

 

それにしてもインタビュー中、ずっと笑っている。その屈託のない笑顔で場を明るくしてくれる。それも主人公たる所以だろう。

 

「みんなが笑っているのが好きだし、自分もすごく笑っちゃいます。本当ツボが浅いですよ(笑)だからずっと笑っています」

 

その笑顔は、周りを巻き込む。世界も彼女の笑顔の虜になった。

 

FIFA U-20女子ワールドカップ コロンビア2024。グループステージ初戦のニュージーランド戦に先発すると、チーム初得点を含む2得点。最初に話題になったのは、その1点目を奪ったあとだ。彼女を祝福するために集まった輪が一斉に同じ動きをする。ベレーザのファン・サポーターにはすでにおなじみだった、肘と肩を交互に指す「土方ダンス」だ。

 

「影響力はすごかったですよね。あれですごく有名になりました。みんなもやってくれましたしね。自分が点を取ってなくてもやりたかったとか言っている人もいましたよ(笑)」

 

この大会、日本女子代表は決勝で北朝鮮に敗れたものの、個人では得点ランク2位の5得点でブロンズブーツを獲得。ただ、満足はしていない。

 

「(得点は)もっと取れるところもあったし、全然満足はしていません。5点を取ることができましたが、強い相手に点を取ることができませんでした。ゴールデンブーツ(得点王)が取りたかったです。まだ足りないんだっていうのをしっかり考えながら、もっと成長したい、もっとうまくなりたいなって思いました。あとはチームが優勝してなきゃ意味がない。結局ゴールデンボール(大会最優秀選手)もゴールデンブーツも、(優勝した)北朝鮮の選手が獲ったんですよ。だからそれを見ると、まだ足りないなって」

 

「欲しいものは全部手に入れたい。誰にも負けたくない」彼女にとって、その感想は当然のものだろう。ただ、それ以上に悔しい。それは2年前に遡る。

 

FIFA U-20女子ワールドカップ コスタリカ2022に飛び級で出場した。今回と同じく準優勝だった日本の中で、彼女は準決勝のブラジル戦を除く全ての試合で途中出場。先発はゼロ、無得点に終わった。

 

「課題はフィジカルの部分かなって。体も小さかったですし、上手さだけではダメかなと。味方とのコンビネーションだったり、そういうところでも、やっぱり通用しないなって思いました。そこから守備のときの前線での強度だったり、ハードワークももちろんですけど、フィジカルコンタクトの部分とか。攻撃では自分でターンしてはがすというプレーを心がけてきました」

 

雪辱を誓って準備してきた2年間。ゴールデンブーツは取れなかったが、グループステージ第2節ガーナー戦以外の全ての試合に先発し、チームの勝利に貢献してきたのは誰もが認めるところだ。

 

朗報が届いたのは、ワールドカップから戻ってきて、しばらく経った頃だった。MIZUHO BLUE DREAM MATCH 2024 韓国女子代表戦に向けたなでしこジャパンに招集された。初めてのフル代表への切符だった。

 

発表の翌日に行われたSOMPO WEリーグ 第6節 ノジマステラ神奈川相模原戦。6分に松田紫野のゴールでアシストし、25分に自らチーム2点目となるゴールを決めた。しかし43分、ボールを味方の縦パスを受けようとしたところで、ピッチにうずくまる。なんとか起き上がるも、足を引きずりながらピッチを去り、そのまま交代。初めてのなでしこジャパンは幻に終わった。

 

「まず選ばれたことはめちゃくちゃ嬉しかったんです。(藤野)あおばさんとか(植木)理子さんとか、懐かしい人とまた一緒にやれるというのも楽しみの1つでしたし、高いレベルの中で自分がどれだけ通用するのも知りたかったんです。本当にいろいろな意味で楽しみだったんですよ。だから、辞退することになって、夜もずっと眠れないくらい悔しかったです。ただ、まずはこの怪我を早く治すこと。あとは、そもそも今のままでは呼ばれても1回で終わっていたと思うので、これもいい機会だと思って、リーグでもっと活躍しなければいけない。そんな結論に至りました」

 

心の中で、様々な葛藤はありながら前を向いた。それでも、自分が出場していたかもしれない韓国戦を観るのは辛かったのではないか。

 

「今までの自分だったら、こういう状況であれば試合は観ていなかったでしょうね。でも、なでしこジャパンがどんなサッカーしているのか、この選手はどんなプレーをするのかと、研究ではないですけど、そういうのも含めて観ていました。気持ち的には自分がベンチにいるかのようでしたね(笑)」

 

強い相手や、厳しい現実に一度は屈する。しかし、そこから這い上がり、より強くなって戻って来る。スポ根漫画を地で行く「土方麻椰物語」は、まだまだ序章。これらはその物語に添えるスパイスの1つに過ぎない。最高のハッピーエンドに向けて、主人公はまだまだ強くなる。

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