日本瓦斯株式会社
株式会社ミロク情報サービス
株式会社H&K
ATHLETA
ゼビオグループ

NEWSニュース

2024.05.17 ベレーザ

Beleza Match Preview & Column #21

Player's Column
『木下桃香という"スパイス"』

分からない。

今年2月、関東に雪が降り積もると、練習グラウンドも例外ではなく、ピッチには数センチの雪が積もった。雪かきをして練習を行ったものの、練習後、グラウンド脇に寄せられた雪はみんなの“遊具”となった。相撲をして楽しむもの、雪だるまを作るもの。その中で異質だったのは山本柚月、岩﨑心南、そして木下桃香の3人が作った創作物だった。スコップやヘラなどを持ち出し作り出したもの。それは…。

「何か作りたくて、でも雪だるまだとつまらないんで。何かのSNSで和式トイレを作っているのは見たんですよ。じゃー洋式を作ろうと思って」

何が「じゃー」なのかは分からないが、とにかく木下が中心となって作ったそれは、細部まで精巧に作られた実物大の洋式トイレだった。雪が溶けるまで数日間、グランド脇に洋式トイレがある不思議な空間が広がっていた。

「いろいろなものに興味を持ってやる」一方で、「完璧を求めるタイプ」と話す木下は、多趣味で、かつそれにどっぷりとのめり込む。中には飽きてしまったものももちろんある。「1分以内に6面を揃える」という目標でルービックキューブにハマったが、その目標をすぐに達成して「もうバッタリやめました」とのこと。

その中でも「全然飽きない。飽きないっていうか、多分ずっとこれからもやりそうです」という趣味が2つある。1つは登山。もともと自然が好きで、「いい空気を吸って、いい景色を見る」。そして、それを写真に残したい。ただシーズン中にはなかなか行けないため、インスタできれいな景色を物色して、「この山に行ってみたいな」と思いを馳せる。

もう1つはカレーだ。スパイスを2~30種類持っており自分で作ることもあるが、「自分が作るよりも、その道を極めてる方のものを食べた方がもうマジで100倍美味しい」と言う。

「1週間毎日カレーでも、ジャンルを変えれば食べられますね。カレーっていうのは給食とかで出るようなカレーから、スープカレー、スパイスカレーとかもありますし、インドカレーってみんなが想像するバターチキンとナンのカレーもあります。でも、インドカレーってもっとディープなんですよね。インドで出てくるのって、自分たちからしたら全部同じカレーなんですけど、向こうの人からしたらもう全然別の料理っていう認識らしくて。豆と野菜のあっさりしたカレーはサンバルという名前がついていたり、トマトとか酸味のあるのはラッサムという名前がついていたり…」

カレーの話をするともう止まらない。聞く人にカレーの幅広さを伝え、何よりその情熱で「このあとカレーを食べようかな」という“カレーの口”にさせてくれる。ふと、それは彼女のサッカーをしている姿に重なるのではないかと思い至る。予想外のプレーでサッカーの奥深さを示し、見ている人を『サッカーって楽しいな』という気持ちにさせてくれる。「カレーとサッカーのつながりはありますか?」と質問をしてみたのは、そんな答えを期待したからだった。

「ちょっとサッカーでネガティブなときとかも、毎週必ず行くスパイスカレーのお店があるんですけど、そこでリセットされるっていうか…。自分で稼いだお金でこれを食べて、これ以上の幸せがどこにあるんだろうっていつも思います」

と斜め上の答えが返ってくるのであった。

それはさておき、真面目にサッカーについての話を聞いていると、彼女が大事にしているサッカー観があるという。それは「楽しむ」ということだ。それだけを聞くとありきたりなように思われるが、これだけ見事に言語化できるのはそれだけ考え抜いている左証だろう

「点が入ったとき、勝ったときの爆発的な嬉しさって、めちゃくちゃいいと思いますし、その嬉しさって大事なんですけど、実際それってサッカーじゃなくても味わえるじゃないですか。だけど『何で自分はサッカーをやっているんだろう』って思った時に、やっぱりサッカーそのものが面白いから。そこを忘れたくないなって。プロ化になったのもありますし、『結果』『結果』って言われるようになって、必死になれば必死になるほど感じられないものが増えていくんだなというのも感じたりもして。だからその楽しむっていうのが自分にとって一番大事だよっていうのは、自分に言い聞かせてるところもあります」

もちろん現実もわかっている。

「でも、強くなかったら自己満足でサッカーを楽しんでいる人になる。それはもうわかりきってることなので。特にベレーザにいるんだったら、大前提として戦うとか、目の前の相手に負けないっていうのは、もう絶対なきゃいけないもの。イワシさん(岩清水梓)とかカツオさん(村松智子)を見ていたら、それは当然という感じなんで。そこは履き違えないようにはしています」

それこそが独特な存在感を放ちつつ、ベレーザの10番を託され、さらにWEリーグ開幕からここまで全試合に出場している所以なのだろう。

小さいとき、元ブラジル代表のカカに憧れていたこと。そしてプロになってスタッフから参考にした方が良いと言って見せられたのが偶然にもカカのプレー集だったこと。遠征には必ずパソコンを持っていき、大体は大学の課題をやっているのだが、大学で学んでいるプログラミングの技術を使ってクソゲーを作っていること。「自由に生きる」をモットーとしており、壁に「自由に生きる」と書いた紙を貼って、毎朝起きる時にそれを見ていること。他にも数々の逸話があるが、まだまだ書き切ることができない。

ベレーザのサッカーに“スパイス”を加え、その後スパイスを摂取する。木下桃香はスパイスでできている。ただ、何種類のスパイスが組み合わさっているのか、多すぎて分からない。

(写真 近藤篤)

Match Preview
『ホームラストで新記録へ』

リーグ序盤はホームで勝てない試合が続いていたが、ここに来てホームは無類の強さを見せるようになった。そして、この試合が今季ホームラストゲームになる。

前節ベレーザは、ちふれASエルフェン埼玉とアウェイで対戦した。ベレーザにとっては今季3度対戦しながら一度も勝てていない相手。これまで通り難しい試合となったが、勝負強さが目立った試合になった。

試合は12分、藤野あおばの縦パスから、土方麻椰が落としてボールは再び藤野の元に。この場面でベレーザのエースは思い切り良く右足を振り抜くと、鮮やかにネットを揺らしてベレーザが先制に成功する。さらに24分にはゴール前のパス回しから最後は土方がシュートを放つ。こちらは枠を捉えることができなかったが、パスで剥がすベレーザらしさが随所に見られたシーンだった。そうした中で27分には、桂亜依のシュートがGKの前にこぼれ、吉田莉胡がシュートを放つも、田中桃子のタイミングの良い飛び出しで防ぐ。順調に試合を折り返したが、そのまま試合が終わることはなかった。55分、EL埼玉はCKのこぼれを吉田がシュート。これがディフェンスに当たってオウンゴール。不運な形で追いつかれることになってしまう。それでも82分、藤野がハーフウェイライン手前から一気にスピードアップ。力強いドリブルでゴール前まで持ち込んでクロスを上げる。逆サイドから交代出場の北村菜々美がボレーで合わせて勝ち越し。劇的な勝利となった。

「今までのゲームだと、引き分けで終わる、あるいは失点するような流れだったのを、自分たちの勝利に結びつけられたことはチームとしての成長だと思いますし、選手それぞれの努力した結果だと思っています」

と松田岳夫監督は選手を褒める一方で、「ただ本当にゲームを支配してる割にはゴールが遠く、シュート数も少ないですし、得点を奪うために『何が』必要なのかというところが、まだまだ我々のチームには不足しています」と反省する。これはこの試合に限らず、ここ最近の課題だ。試合を支配していたものの、シュート6本は相手と同じ。失点を喫したCKも相手の方が本数が多かった。ただ、これも勝って反省することができるのは大きい。今季に出た課題は、今季のうちに。残り2試合、変わった姿を見せたい。

一方、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースは2位のINAC神戸レオネッサと対戦した。試合が動いたのは45分だった。鴨川実歩がスローインからのボールを受けて前を向いてゴールライン際からクロス。これを大澤春花がニアで当て、GKにセーブされるも再び大澤が押し込んで千葉Lが先制に成功する。それでも優勝に向けて後がないI神戸は後半に猛反撃。50分にはロングボールに抜け出した田中美南のシュートはポスト直撃。さらにはクロスのこぼれを成宮唯が狙うと、ボールが相手ディフェンスの手にあたってPKを獲得。これを髙瀬愛実が落ち着いてGKの逆を突いて決める。底力を見せたI神戸だったが、それを上回ったのは千葉Lの執念だった。85分、鴨川が右サイドからカットイン。左足から放たれたシュートは、きれいな弧を描いてゴール左角に吸い込まれて勝ち越しゴール。このまま最後まで1点を守り抜いた千葉Lが激戦を制した。

I神戸はこの試合に勝利すれば優勝の可能性も残されていたが、その希望は完全に打ち砕かれた。むしろ、そのI神戸を破った千葉Lは相当な自信を掴んで西が丘に乗り込んでくるだろう。だが、ベレーザも現在10戦負け無しの4連勝中。破竹の勢いで終盤に突入している。また、この4連勝はベレーザにとってはWEリーグ開幕以来の連勝記録タイとなっており、次に勝利すればクラブ新記録ということになる。ホーム最終戦、ファン・サポーターの目の前で新しい記録を作りたい。

(写真 近藤篤)