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2023.05.02 トップ

Match Preview & Column #7

Special Column

『再加速の5月へ、水戸戦終盤に見せたこのチームの強み』

選手もサポーターも、痛い記憶として胸に刻まれているだろう。昨年4月~6月にかけて行われた13試合で、わずか1勝に終わった期間のことだ。

開幕から8試合負けなしとスタートダッシュを切ったあとに訪れた、悪夢の3カ月。指揮官は交代となり、昇格レースからは一気に後退した。何をしてもうまくいかない。どうにも歯止めが効かなかった。

今季も、そのピンチに近い現象が起きていた。第8節で清水に敗れたあと、第10節・千葉戦、第11節・山形戦で今季初の連敗。それでも、4月29日に行われた第13節・水戸戦を2-0で勝ち切った。「われわれが望むステージで戦うには絶対に負けられない戦い」と城福浩監督が位置付けていた試合で勝ち点3を取ったことに意義がある。

水戸戦で「何より良かった」と指揮官が言及したのが、「クローズの仕方」だった。最前線の位置で途中出場した阪野豊史は、ゴールが欲しくてたまらない思いを持ちながら、遮二無二ボールを追いかけ続けた。遠い位置で始まりそうだったスローインに対して、猛ダッシュで相手のマークにつく。攻撃でも体を張ってボールをキープ。たとえ自分の位置でマイボールにできなくとも、その頑張りが連鎖して彼が絡んだプレーはほぼすべてがヴェルディのボールとなった。

 「やっぱり、勝たないとダメなんでね。途中出場の選手は元気なぶん、流れをぐっともってこられるようにしないといけない。監督から求められているのがそういうことですし、やるだけですよ」

その阪野と山越康平が投入された76分からヴェルディはペースを加速させ、2点を奪った。2-0になっても全員が足を止めることなく、阪野も前で残ってゴールを狙うというような素振りは見せず、とにかくチームプレーに徹した。

こうした強い勝利への意志が、漂っていた悪い雰囲気を切り裂いた。アウェイに多く集ったサポーターも、それを力強く後押ししていた。

停滞の4月から、再加速の5月へ。負傷者がいようが、離脱している選手がいようが、ヴェルディはヴェルディ。水戸戦終盤のように一丸となったチームプレーは、きっとこのチームを「望むステージ」に近づけてくれる。

(文 田中直希・エルゴラッソ東京V担当/写真 松田杏子)

Match Preview ジュビロ磐田戦

『「工夫が必要」な今節、昨季J1チーム相手に誰が輝くか』

10節ジェフ千葉戦、第11節モンテディオ山形戦で今シーズン初の連敗を喫した東京ヴェルディだったが、「もう一度、自分たちのサッカーを」と、攻守においてアグレッシブさを取り戻し、前節水戸ホーリーホック戦で連敗を止めることに成功した。

中でも、杉本竜士、加藤弘堅、稲見哲行らフレッシュなメンバーが加わり、新たなポジション、組み合わせにもトライした中で結果が出たことは大きな収穫だった。

また、試合後の記者会見で城福浩監督が「なによりも一番素晴らしかったのはクローズの仕方です。後から入った選手が相手にシュートもさせない、クロスも上げさせないという迫力で、全員で勝ち取った勝ち点3だったと思います」と語った通り、今季チームの最大のストロングである「バトンを繋ぎ、90分間強度の落ちない戦い方」を表現しての勝利だったという点でも、価値ある一勝だったと言えよう。

中3日の連戦となるが、今節も練習から全員がフルスロットルで一戦必勝を期す。

迎え撃つのはジュビロ磐田だ。J1で三度の優勝経験を持つ古豪クラブで、昨季もJ1で戦っていたチーム。それだけに、選手個々のレベルはJ2でも屈指と言える。今季は新たに、昨年まで日本代表コーチだった横内昭展監督が就任し「ボールを大事にするサッカー」を掲げて戦っている。

ストロングは攻撃力で、ここまでリーグ2位の21得点を誇る。突出したストライカーこそいないが、FW後藤啓介(4点)、MF松本昌也(4点)、DF松原后(3点)と各ポジションに得点力の高い選手が揃っており、松原、鈴木雄斗の両サイドバックの突破力も非常に強力だ。サイドの攻防も含め、東京Vの最大のストロングである守備力でシャットアウトできるかに注目だ。

一方で、磐田は第6節の栃木SC戦を除いた全試合で失点を喫しており、守備に不安を抱えているという側面をもつ。特に早い時間帯での失点とセットプレーの守備を課題としているだけに、東京Vとしては立ち上がりから主導権を握り、機を見て得点チャンスをモノにしたいところだ。

とはいえ、あくまでも自分たちの戦い方のベースは「先に失点しないこと」だと宮原和也。

「失点することによって、2点を取らなければいけない状況になるので、そこで前がかりになってさらに失点してしまうこともあると思うので、特にゲームの入りは大事になる」と、攻撃力の高い相手にさらに警戒を強めた。

また、深澤大輝も、「0−0の時間をいかに長くできるか」をポイントに挙げる。その上で、「攻撃では相手が嫌なこと。前に、前にというサッカーをどれだけできるかが鍵になると思いますし、守備では、局面局面で一人一人が負けないことと、全員がハードワークをして繋いでいければ、絶対に勝てると思う」と自分たちの戦い方に持ち込むことの重要性を強調した。

台所事情が厳しくなり、「工夫が必要」だと城福監督は現状を捉える。

「人間困ったときに、おそらく一番新しい発想が生まれると思う。選手もこういう状況で、覚悟を持ってやってくれると思います」。

前節を踏まえ、「何ができて、修正したいものが何なのか。前半、うまくいかなかったように見えたところも、その選手で修正できる可能性もあるし、人を替えることで修正できることもあるし、という意味では、メンバーはフラットに考えている」と指揮官。

この試合では、どの選手の躍動が見られるだろうか。メンバー構成も含め楽しみにしたい。

(文・上岡真里江/写真・松田杏子)

Player's Column

『高める存在価値の裏側にある深澤大輝の姿勢とは』

副主将・谷口栄斗、梶川諒太など、人一倍強い東京ヴェルディへの思い入れを口にしている選手が相次いで負傷離脱している中、「彼らの分も」と、使命感を胸に闘っている選手がいる。深澤大輝だ。

今季でプロ入り3年目を迎え、ピッチ内外にわたりチーム全体のことも見えるようになってきた。

「そこまで特別何かをしているというわけではないですが、チームの雰囲気なども感じながら、僕なりに何か気が付いたことがあれば、怪我をしてしまっていますが、それでもチームのためにやろうとしてくれている梶くん(梶川)だったり、加藤弘堅さんや平智広くんなど、近くにいてくれる先輩に言っています。そういう素晴らしい年上の先輩がいてくれるからこそ、自分たち中堅と言われる年齢の栄斗、森田晃樹とかアカデミー育ちの選手も、本当にどうしたらチームがいい方向に行くのかを考えてやることができています。晃樹、栄斗はキャプテン、副キャプテンという立場がありますが、僕も役職関係なく、梶くん、弘堅さん、平くんたちと協力してチームを引っ張っていけるような存在になっていきたいなと思っています」。

大学4年間は中央大学で過ごしたが、ジュニア時代から育ったこのクラブへの想いは、深澤もまた非常に深い。

だからこそ、ちょっとした緩みも見逃したくない。最近気になったのが、ウォーミングアップの後に行われるロンドでのボール回しのことだった。

「立ち位置一つ一つが、きちんと取れていなくない?」

感じたことを谷口と共有し、「そこは、先輩に言ってどうとかではなく、僕らが率先してやっていけば変えていけるところだと思ったので、積極的に改善につながるようにプレーで示したり、声かけなりをやっていくようにしました」。

そしてそれは、試合にも通じている。「今、梶くんみたいに的確に、かつ厳しく言えるな人がピッチにいなくなってしまった分、試合中に声で何かを変えられる人がいないなと、平くんも言っていて。自分も試合に出ている立場として、『梶くんがいなくなったらできない』じゃ絶対に駄目ですし、そういう存在がいなくなった時に何を、どれだけできるかということが、この先の成績を大きく左右すると思っています。だからこそ、晃樹や僕がやらなくてはいけない」。

前節水戸戦でのゴールは、まさにそんな危機感と責任感がもたらした一撃だったと言えよう。

とはいえ、決して最初から順調だった今シーズンではない。昨シーズン終盤、チームは6連勝といい形で幕を閉じた一方で、深澤は第38節の先発フル出場を最後に、以後5試合は途中出場もしくは出場なしと、悔しさが残った。

さらに今年に入り、新チームを作っていく中でも、紅白戦、練習試合、プレシーズンマッチでは主力組には入れない日々。いつしか深澤の表情から笑顔が消えていた。開幕してからも2試合メンバー外が続いた。

さすがに「開幕戦の週はきつかった」と胸中を明かす。

「正直、試合が終わってハイタッチするときに、『やっぱり悔しいな』って。選手であれば、たぶん全員がそう思うと思うのですが、それでもあの時の僕は、人一倍『悔しい』と思っていました。でも、だからこそ『また頑張ろう』と思えたのかなとも思いますね」。

そして、第2節大分戦での敗戦によって出場機会が巡ってくると、第4節からはレギュラーを掴み取り、第9節秋田戦を除くすべての試合で先発起用されている。

文字通り、「自力で奪った」と言えるポジションだが、相応の礎がある。不遇の日々を振り返り、こう語る。

「僕は、厳しい状況に立たされた時に(メンタルが)落ちてしまうプレーヤーではないと自分の中で思っていて。逆に、それを『悔しいから頑張ろう』と思える原動力にできるタイプの人間だと自分で思っているので、そういう姿勢は大事にしていました。例えばメンバー外の練習。メンバーは移動があるから先に練習が終わって、その後にやる44だったりって、サッカー選手として一番悔しい瞬間なんです。みんなピッチに立ちたいと思って練習しているのに、ピッチに立てないってわかった瞬間なので。でも、じゃあだからといって不貞腐れるのかと言ったら、それは違うと思います。幸い、今のヴェルディにはそういう選手はいませんが、そういう逆境に立たされた時の立ち振る舞いを城福浩監督やコーチの方々も見ていてくださったから、また再び試合に出る機会をもらえたのたのかなと思っています」。

日頃の練習では、連日、最後の方に引き上げてくる。練習の最後に必ず20分弱のジョグをすることをルーティーンにしているからだ。信頼する個人トレーナーから「毎日20分以上走ることプラス、1キロ走などを週に1、2回やってあげると走れるようになる」とアドバイスを受けたことと、もう一つ、「ナラさん(奈良輪雄太)が練習前に20分、練習後に20分走っている姿を見て、自分も走ろうと思って走っています。あんなふうに動ける土台、ずっと動き続けられる力をつけていきたい」。

チーム作りやリーダーシップという点でも、一人のプロサッカー選手という点でも、模範にできる素晴らしい先輩に囲まれていることを実感してやまない深澤。そうした先輩たちから学びを得て着々と成長していく深澤の姿を見て、また誰かが感化され、自覚と責任をもって闘う選手が増えていくことを願ってやまない。

「僕の中では、最後の苦しい時間帯に耐え切って、試合終了の笛をピッチ上で聴く瞬間と、勝った後にファン・サポーターとラインダンスをする瞬間が、一番『サッカー選手をやっててよかったな』と思える瞬間なんです」。

役職も特にない。キャプテンマークを巻いているわけでもない。それでも、率先してチーム牽引を買って出る背番号『2』の存在価値は、この先さらに高まっていくだろう。


(文・上岡真里江/写真・近藤篤)