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2020.11.25

緑の十八番 藤田譲瑠チマ選手編

マッチデイプログラム企画『緑の十八番』

藤田譲瑠チマ 選手

文=上岡真里江(フリーライター)

 

今季東京ヴェルディで一番の成長株と言っていいだろう。高卒ルーキーながらここまで35試合中34試合、うち28試合に先発出場している。起用してきた永井秀樹監督も「正直、この短期間でここまで伸びるとは想像以上です」とその急躍進ぶりに深く感嘆するばかりだ。

 

中盤の底、アンカーとして、ボールを刈り取り、相手の攻撃の芽を摘む。攻撃に転じれば、しっかりとボールを収め、瞬時に狙ったスペースへパスを送り、チャンスを演出する。それが自身も自覚する主なタスクだが、その一つひとつのプレーが極めて堅実だ。

「自分は(山下)諒也くんみたいにめちゃくちゃ足が速いわけではないですが、90分間しっかり走り切れる。ハルくん(井出遥也)みたいにドリブルで相手を2、3人かわすことはできないですが、ひとりなら外すことができる。(佐藤)優平さんみたいに逆サイドに振るスーパーなパスが正確にできるわけではないけど、自分のところでパスをつないでテンポを出すことはできる。というふうに、“これ”といったスペシャルなものがあるわけではないですが、いろいろなことができる。普通のことを、普通にできるところが、自分の武器なのかなと思っています」

 

藤田の言う「普通のことを普通に」は、決して“平凡”という意味ではない。「止める」「蹴る」といった基本技術はもちろん、スピードやドリブル、すべてにおいて、それぞれのスペシャリストたちに合わせられるだけの技量が備わっているというレベルでの話だ。

 

何かひとつの要素に特化するのではなく、多くのことを平均レベル以上に。今のプレースタイルを強みにしていくことを選んだのは、ごくごく自然な流れだったという。すべては「試合に出たい」からだ。

 

多くのプロサッカー選手がそうであるように、藤田もまた、小学生時代は「ドリブルで全員抜けるぐらい」に突出した存在だった。だが、中学生になり、東京ヴェルディのジュニアユースに通うようになると、チームメイトや対戦相手のレベルの高さに、次第に個人技が全く通用しなくなっていった。

 

周りのレベルについていこうと必死になってたどり着いたのが、「相手に合わせてもらうんじゃなくて、自分が相手に合わせるほうがいい」という選択だった。

 

そのチョイスには、ボランチというポジションも大きく影響したと本人は振り返る。小学生時代からの定位置だったが、ジュニアユースに上がってからは、個人技よりもチームプレーがどんどん増えて、「バランスを見るようになり、周りを生かすためのプレーを考えるようになっていった」という。

 

最初は違和感ばかりだった。「小学校の時のチームは、同サイドでただワンツーとかドリブルとかで切り崩していくスタイルだったのですが、アカデミーでは自分のところにボールが入ったら『早くサイドを変えろ』という指示が監督やコーチからも、選手からも聞こえてきて、すごく難しかったです」。サイドチェンジは今も「それほど得意ではない」と自覚しているが、それでもやり続けてきたことで、慣れていったことは確かだ。

 

また、ユースへ昇格すると同時に永井監督が就任し、ポジショニングや視野の確保の重要性を徹底的に教え込まれたことも、ボランチとしての成長を大きく助けた。そこはプロになった現在も、さらなる質の向上を求められている部分だ。

 

「今はボールを見る時間を少なくして、周りを見る時間を増やすことを意識しています。正直、ボールから目を離すのは怖いです。どんな状況も数秒で変わりますから。しかも、周りを見ながら自分もきちんと正しい立ち位置にいないと、周りを見ていても意味がない。さらに、技術が追いつかないとできないプレーというのもたくさんある。両立させなければいけないことがすごくたくさんあって、本当に難しいです」。

 

今はまだ、それらを意識してプレーしているが、目指すのは「無意識でそれができるようになること」だ。

 

「普通のことを普通に」できるプレー面での武器に加え、18歳のボランチにはもうひとつ強烈な魅力がある。飲み込みの早さだ。

 

象徴的なエピソードがある。今季から加入した元日本代表FW大久保嘉人は、春季キャンプ時から藤田のポテンシャルを見込んで、「ボールを持ったらまず俺(前)を見ろ」、「縦パスを入れろ」、「縦パスが入った後、すぐ俺の下にもぐれ」と、得点を生むためのノウハウを繰り返し要求した。

 

上手くできるかどうかはともかく、まず素直に聞き入れ、言われた直後からトライしようとする姿勢に、Jリーグ歴代最多得点記録保持者は「めちゃくちゃ良くなったし、これからもっともっと伸びる」と大絶賛している。実際、大久保のアドバイスもあって、さばくだけではなく決定的な仕事でチームに貢献することが増え、周囲からの評価も格段に上がった。

 

「最近になっていろいろなことを言ってもらえるようになりましたが、それは先輩たちが経験してきたことでもあるはずなので、間違いはないと思う。絶対にやらなきゃ損だと感じています」。先達へのリスペクトと、助言を受け入れる純粋な姿勢が、急成長を促していると言っていいだろう。

 

2019年に初招集されたUー17日本代表では、初めてサイドバックというポジションを与えられたが、『郷に入っては郷に従え』だ。ヴェルディユースのサイドバックとは全く違った役割を求められながら、「とにかくやってみよう」と必死に指揮官やチームスタイルに合わせることで自らの居場所を確保した。

 

「チームにフィットするために、自分を壊すという考えは持っています」

 

藤田は自分の性格をこんなふうに分析する。

 

「やりたいことに対しての我は強いですが、最後に自分を折ることができるのはすごく良いのかなと思います。自分はそんなに上手くはないので、もし蹴るサッカー、走るサッカーをやってもついていけると思う。そこは自分の強みだと思います」

 

その根底にも「とにかく試合に出たい」という並々ならぬ強い思いがある。

 

「もし違うチームに行ったり、今とは真逆のサッカーをする監督になったりしたとしても、とにかく試合に出て、その中で成長して、活躍したい。そのためには、時には自分を折るしかない」

 

将来、海外でプレーしたいという強い希望がある。ただ、他の選手と少し違うのは、求めているものが、クラブの規模や国、地域といった部分ではないところだ。

 

「自分は見ていてゾクゾクするような“闘う”サッカーがやりたい。その中で、バルサのような綺麗なサッカーも、削り合いみたいなサッカーもやってみたい。とにかく毎試合、見ている側もやっている側も、熱く闘うような環境の中でやりたいです」

 

新型コロナウイルスによる自粛期間、有り余る自宅時間の中で「自分の価値を示せるのはサッカーしかない」との考えに思い至った。あれから季節がふたつ過ぎ、着実に成長を実感できている。伸びしろはまだまだ無限大だ。

 

「普通のことを普通以上にやりながら、自分にしかない武器というものを探していけたらいいなと思います」

 

すべては試合に出るため。

 

その先にこそ、自らの存在意義のすべてがあるのだから。