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2020.08.27

緑の十八番 井出遥也選手編

マッチデイプログラム企画『緑の十八番』

 

井出遥也 選手

 

文=上岡真里江(フリーライター)

 

 「ハル、前よりも楽しそうにやってるね!」。

 

親しい仲間や対戦相手として再会したかつてのチームメイトから、そう言葉をかけられることが増えた。その声を聞くたびに、井出遥也は東京ヴェルディに来てから日々感じている、かつてない充実感を確信する。

 

「これまでで、今が一番楽しい」

 

少年時代からプレーのモットーは一貫していた。“違いを生み出すこと”。本格的にサッカーを始めたジェフユナイテッド市原・千葉のアカデミー時代(U−15、U−18)にも、出会う指導者たちから常にそれを求められた。

 “違い”という抽象的な表現をあえて具体化すれば、「攻撃のスイッチを入れる役」になること。「自分のところにボールが入った時に、チームとしてスピードがグッと上がるイメージ。ボールが上手く動いたり、ゴールに向かってみんなのスイッチが入ったり、そういうプレーの一番最初になることを意識してやっています」。その意識はプロになってなお、自身にとっての強固な礎となり続けている。

 

そのために何かコレといった特別な練習をしてきたわけではないが、気がつくと周囲から『面白い選手』と言われるようになっていた。あらためてその根本を遡ってみた時、たどり着くのは「常に『楽しい』と思いながら練習していた」自分だ。

 

 「ジュニアユース時代の監督は、2002年日韓ワールドカップでアルゼンチン代表のリエゾンをなさっていた荒川友康さんでした。ユース時代は菅澤大我さん、永田雅人さん(現日テレ・東京ヴェルディベレーザ監督)という、ヴェルディ育ちの方に教わりました。お世話になった指導者の方はみんな、南米というか、“遊び心”や“間”でリズムやテンポの差をつけること、ボールを大事にすること、相手と駆け引きすることを意識してやっていたので、そうしたものが自然と身についたのかなと思います。僕はヴェルディのアカデミー出身ではないですが、きっと似ているものはあったはず。だから今、ヴェルディに来てすんなり入れていますし、すごく楽しくやれているのかなと思います」

 

特にユース時代に得たものは多かった。菅澤監督(当時)の下で「相手の逆を突くこと、相手を剥がすこと」を徹底的に学んだ。「相手を剥がして一人置き去りにすることで、優位性を保てますから。それが今の自分のストロングになっていると思っています」。結果的に、ここで絶対的な武器を手に入れた。

 

“違いを作れる選手”として、ジェフ千葉のトップチームに昇格。しかし、ここで唯一とも言える壁にぶつかっている。高校生と大人とでは、肉体的に差があるのは当然だ。まずフィジカル面での課題を突きつけられた。

 

加えて、一貫してボールを大事にするサッカーだったアカデミー時代と、当時のトップチームとはスタイルが異なったため、戦術理解にも苦労した。ただ、そうした壁に直面しても、決して立ち止まることはなかった。逆に「戦術も大事だけど、それ以上に個で戦える選手じゃないと生き残れない」ということを肌で感じ取り、徹底的に“個”を磨くことを決意した。幸いなことに、プロ1年目の指揮官の練習は、「1対1や個で剥がすためのもの」が多かった。「それが今の自分にとって、ものすごくプラスになりました」。試合には出られなかったが、自分の武器をより強固なものに研ぎ澄ます最高の時間となった。

 

遊び心溢れる独特のリズムとテンポを持ち、かつ、相手を剥がすスキルにも長ける。そんないかにも“ヴェルディっぽい”選手を、永井秀樹監督が見逃すはずがなかった。すでに千葉の主力として試合に出ていた井出のプレーに、当時まだ現役選手だった永井監督は完全に魅せられた。

 

それから4〜5年の時を経た今年、「監督と選手」という関係性でふたりの人生は交わった。「監督になってすぐオファーを出した」という指揮官と「山形にいた去年、対戦相手としてヴェルディを見ていて、永井さんが監督になってから本当に魅力的なサッカーをしていると思っていた」という井出。ヴェルディと千葉、育った環境こそ違うが、受けてきた指導のルーツを思えば、互いに惹かれ合うのはある意味当然だった。

 

自分の持ち味を出すことが、そのままチームが目指すサッカーの欠かせない歯車になる。そんな最高の場に辿り着いた。徹底された戦術、規律がある中、同じサッカー哲学を共有する仲間たちによって生まれる共通理解。そして、その規律を超越するアイデアやコンビネーションの創造。それが最高に楽しいのである。

 

「周りがあって、自分の良さが生きているというのを今、すごく感じています。本当に来て正解でした」

 

仲間によって自分が生かされているからこそ、自分もまた仲間のストロングを生かすために、「簡単にボールを失わないよう」心がけている。それ以上に、ここ数年は「上手いだけではなくて、自分がボールを持った時に、相手に『怖い』と思われるようなプレー」にこだわっている。だからこそ、「ゴール、アシストにもっともっとこだわってやっていきたい」

 

キャリア最高の充実感を持ってプレーしている今こそ、一番の成長の機会だろう。唯一無二の存在へ。誰にも真似できない“違い”を、これからも追求し続けていく。