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2024.07.05

背番号『10』見木友哉の"決意"と"覚悟"

Player's Column

「背番号『10』見木友哉の"決意"と"覚悟"」

今季から新加入で、いきなり背番号『10』を背負っている見木友哉。「偉大な人が着けてきた“ヴェルディの『10』番”なので、他のチームで着ける『10』番とは少し違ったものなのかなと思います。それに、どのチームでも『10』は特別な番号。だからこそ、責任感などはつきまとうと思うので、そういうプレッシャーをはねのけられる人じゃなければ『10』番を着けるべきではないと思っています。僕も、小・中・高・大学で『10』を着けてきましたが、このヴェルディでも重圧をしっかり跳ねのけて、数字で責任を果たせられたらと思っています」と、日本サッカー界をリードしてきた“ヴェルディ”というクラブならではの歴史的価値も重々理解した上で、そのエースナンバーを受け継ぐことを自らの意思で選んだ。

そして、その決意をしっかりとパフォーマンスで示し、この半年で「新・背番号『10』=見木友哉」はすっかり板についている。

 

城福浩監督からの信頼も絶大で、キャンプ時から常に主力メンバーに入り、開幕後もここまで21試合中、出場停止1試合を除く20試合に起用されているのが何よりの証明と言えよう。また、プレー内容も能力の高さをはっきりと示しており、確かな戦術眼、高い技術と得点力に加え、データとしてもチームトップの総走行距離、さらにはデュエル勝利数も一時はリーグ2位に君臨するほど(7月4日更新時点ではリーグ6位)のハイパフォーマンスを誇る。

 

ジェフユナイテッド千葉から移籍の最大の理由が「J1でプレーしたい」であった通り、見木にとっては念願の舞台でのプレーだ。開幕を前に「チームとしても個人としても、“J1レベル”というのがやってみなければわからない」と話していたが、試合をやっていく中で、「J2にはいない、ものすごいハイレベルな外国籍選手がJ1にはいるという違いはありますが、 他の部分で言ったら、もちろんJ1の方がすべてにおいてレベルは高いですが、そこまで大きな違いはないと個人的には感じています。チームとしても、4敗のなかで大敗はありましたが、前半戦を終えて『絶対に敵わない』と思ったチームは1つもなかった』と、個人としてもチームとしても手応えは十分感じているという。

 

ただ、だからこそ、物足りなさを感じているというのも正直な思いだ。

 

「シーズン序盤はボランチで、途中サイドハーフもやって、最近はシャドウで出ているというポジション的な事情もあり、そこまで点を取ることが簡単ではないのはもちろんわかっているのですが、それでも自分は、中盤でありながら得点数を稼げる選手だとは思っているので、ここまでリーグ戦で3点というのは少ないなと感じていますし、もっと取らなければいけないなと感じています」

 

2021年、J2で14ゴールを挙げた実績があるだけに、中盤選手とはいえ“得点”という目に見える結果を、誰よりも見木自身が自分に期待しているのである。

現代サッカーでは、中盤の選手には、以前のようなテクニックに長けた、いわゆる“ファンタジスタ”タイプよりも、肉弾戦に強いフィジカル系の選手が求められる傾向にあり、「まず、守備のアラートさ」を起用の絶対条件とする城福監督もまたしかり。そのなかで、見木は自他ともに“テクニック系”と評されてきたが、今季、走行距離やデュエル勝利数など、あらためてデータとして可視化されたことで、自身にとっても新たな発見だったという。

 

「大学まではGPSなどを使ってデータをとっていなかったので、自分がどのぐらい走っているのか、運動量がある方なのか無い方なのかわからなかったのですが、プロに入って測るようになって、走行距離はジェフの時もチームで1番だったことが多かったので、走れる方だという認識はありました。ただ、J1のチームの中も上位の数字ぐらい走っている方だというのは新しい発見でした。それに、デュエル勝利数が2位だった時もあったのがびっくり!今は何位かわからないですが(6位:7月4日更新時点)、そこも新しい発見でした」

 

現代型MFに求められている特徴を理解しつつも、決してそこに合わせてプレースタイルを変えようとしているわけではなかったが、気がつけば、時代にフィットする要素を兼ね備えている自分がいた。

とはいえ、あくまで貫きたいのは「技術力」だと見木。そこには譲れない大きなこだわりとプライドが隠されている。

 

小学4年生から湘南ベルマーレのジュニアに所属したが、中学に上がる際、ジュニアユースに昇格できるかの振り分けのなかで、12人中5人の昇格枠に、見木は入れなかった。その理由は「体が小さいから」。当時、チーム内で1、2番ぐらいに小さかったのは事実だが、「めちゃくちゃ悔しくて。『絶対見返してやる!』という気持ちになった小学6年生の時が、自分の中の1つの大きな挫折であり、ターニングポイントです」

 

反骨心はとてつもないモチベーションをもたらした。「『体が小さくてもできるぞ』ということを証明して、見返してやりたいなと思っていました」。もともと小学生の時から技術にはこだわっており、足元はうまい方ではあったが、中学で横浜FCのジュニアユース、横河武蔵野FCユースでさらに徹底的に磨き、「いかに相手に当たられないか。触れられないようなポジショニングだったり、触れられる前にパスして逃げるだったりという工夫は常に意識していました」。“小さい”という落選理由を逆手に、技術や頭脳を研ぎ澄ました。同時に成長期も重なり身長も伸びてきて、筋トレにも取り組むようになると、次第に努力の差が結果にも現れるようになってくる。練習試合などでベルマーレのアカデミーと対戦する機会が訪れると、当時、自分ではなくジュニアユースに昇格した選手たちに勝利し、最終的には、当時昇格した5人の選手は誰もプロには行けなかった。「そこでひとつ、超せたと思いましたね」。

フィジカル的な弱点を補うべく“テクニック”を徹底的に磨いたからこそ、今の自分がある。だから、どんなにトレンド的にフィジカルを求められようとも、技術をベースに勝負するスタイルだけは絶対に譲れないのである。

 

江ノ島から自転車で15分ほどの家で生まれ育った湘南ボーイの見木。親友がやっていたのをきっかけにサッカーをはじめ、その親友に追いつき、追い越すべく、時間さえあれば砂浜でボールを蹴り、上達に励んできた。

そうしてたどり着いた現在地・東京ヴェルディでは、新たな刺激と充実感に溢れている。

 

昨年まで在籍した千葉では、「年齢的に真ん中より下で、先輩が多い感じだった」という。だが、若手選手の多いヴェルディでは26歳はどちらかというと上の年齢。「若い選手の元気さが、なんかいいな〜と思いながら過ごしています」と、立場的な変化を実感。そのなかで、これまではなかなかなかった行動をする自分も新たに生まれた。

 

「SNSかなにかで、奥さんが作ってくれた料理をアップしたら、古川真人が『いいな〜。食べたいな〜』みたいなことを言ってきたので、『じゃあ食べに来る?』みたいな感じになり、我が家に招待したんですよ。それを一緒に聞いていた食野壮磨も、『真人が食べに行くなら俺も食べたい』とついてきて。近々、山田裕翔も招待する約束になっていて。たまたまですが、みんな大卒でプロ1年目の選手。プロの難しさだったりを感じる部分もあると思うので、実際に自分もプロ1年目はそうだったので、相談に乗るとかではないですが、少しでもコミュニケーションを取ることで、やりやすくなったらいいなと思って」

 

チームへの責任感とともに、一人の人間としても、後輩を慮る器を養いつつある。

 

ヴェルディでの初ゴールがFC東京との東京ダービー。さらに鹿島アントラーズ戦でのアディショナルタイムでの同点ゴールなど、印象的なゴールが多い背番号『10』。得点後にカメラの前でアピールする『Mポーズ』は、プロ2年目から始めたものだと、そのルーツを明かす。

 

「最初、1年目はディバラマスクがカッコよくて、真似したんです。でも、その年は1点しか取れなかったので、変えようと思って。それで、2年目が始まる前に友達とご飯行ってる時に、『なんかゴールパフォーマンスがあった方がいいよね』という話をしてて、友達が『これいいじゃん』という感じでやってくれたのが『M』で。そこからですね。そのあと、他に何かいいのがあればぜんぜん変えようとは思っているのですが、見当たらなくて、変えていないという感じです」

 

今後、変える可能性も十分あるというだけに、今後の見木のゴールパフォーマンスにも要注目だ。

 

J1でも十分通用することを証明している見木。自身の中で燃えたぎる次なるステージへの渇望をはっきりと口にする。

 

「年齢的にもう若くはないので、海外に行くタイミングという意味でも今の年齢がラストチャンスぐらいだと思っています。僕は、海外サッカーが好きで見ていますが、チャンピオンズリーグに出たいというのは、小さい頃からずっと思っていました。その夢を叶えるには、本当にもう今年が勝負の年だというのは自分の中でも分かっています。一番は、海外に行きたいというよりも、チャンピオンズリーグに出たい。それを実現できるチームに行きたいなというのが僕の目標です。その意味でも、ヴェルディは僕にとって本当に大切なチームです。移籍してきて本当に良かったと思っていますし、これからの後半戦、得点やアシスト数など、結果の部分を前半戦以上に伸ばして、走行距離、デュエル勝利数も高い位置をキープしながら、 チームの勝利にたくさん貢献したいなと思います」

 

一見、クールに映るその表情の裏で熱く燃える向上心に、背番号『10』を背負うべき選手の器を見た。

<深堀り!>

Q:モットーはありますか?

 

A:『継続は力なり』という言葉が好きです。僕が継続しているのはストレッチ。自分は決めたことはルーティン化してしまうタイプなので、もう本当に小さい頃からストレッチはずーっとやり続けていて、練習後、お風呂上がりは絶対に欠かさずですね。体も柔らかくなりましたし、怪我も本当に少ないので、それは絶対にストレッチをやり続けてるからこそだなと、個人的には思っています。

 

練習後は20分ぐらいやって、お風呂から出た後は、ストレッチに加えてテニスボールとかで下半身をほぐしたりもするので、全部あわせると1時間ぐらいやっていますね。正直、ストレッチがなかったら、全然もっと早く寝れるのになと思うんですけどね(笑)でも、じゃあ省けるかといったら、それは絶対に省けない。僕にとっては、プロサッカー選手としてとても大切な時間なんです。

 

それと、最近になってトイレ掃除もルーティンに加わりました。奥さんから「絶対にやった方がいいよ」と勧められたのがきっかけです。奥さんは、自分の仕事先のオーナーさんがやっていて、(仕事で)成功しているのを見て、僕に教えてくれたみたいです。できれば毎日がいいと言われたので、本当は毎日やりたいのですが、どうしても時間的にできない時もあるので、とにかく試合前は絶対!で、あとはできる日はしている感じです。

以前から、「トイレ掃除がいい」という話は聞いてはいましたが、実際、何に効果があるのかはまだわかっていません(笑)それでも、やり続けることで何か見えてくるものがあるんじゃないかなぁと思って、楽しみながら続けていきたいと思っています。

(文 上岡真里江・スポーツライター/写真 近藤篤)